事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
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全文-40 (2013/03/04(月) 21:25:51)
 2012.05.29

 全文-40

 まず、カプセルを服用してから、血中濃度が上昇するまでの過程を見て見ましょう。

 両毒入りのカプセルを服用した場合、カプセルに両毒が詰められていても、カプセ
ルの溶解時間は変わりません。カプセルが溶解し両毒が溶出してからの胃内容排
出時間は、両毒が混合したからといって遅れることはありません。トリカブト毒の小
腸からの吸収は溶解拡散によって行われ、「類似薬品が複数存在していても相互
に干渉がない」 ということから、両毒が小腸に存在していても、互いに干渉するこ
とはなく、吸収は濃度の濃淡に従って円滑に行われます。よって、両毒の血中濃度
の上昇は、グラフの曲線に表すと、両毒とも上に膨らむスムーズな曲線になります。
 要するに、カプセルを服用してから、血中濃度の上昇までは、両毒はなんら干渉
することはなく、拮抗作用の影響は、ここまでは一切ありません。
 なお、フグ毒は胃からも吸収するのではないかという疑問はありますが、証言が
なく確認できません。ただし、〔第二の条件〕 のところで説明したように、カプセル
は服用後一三分後には溶解しますので、その時、カプセルがまだ胃にあったとして
も、溶出した内容物はすぐに小腸へ移行をはじめますので、フグ毒の胃での吸収
は若干となります。図1で表現すると、一二分後にフグ毒の血中濃度はなだらかに
立ち上がり、原点近辺で急に上昇していくことのなります。このことから、フグ毒が
胃から吸収するとしても、両毒の拮抗作用には影響はありません。

 次に血液に取り入れられたトリカブト毒とフグ毒の薬理作用を及ぼす器官.組織
の受容体への結び付き方が問題となりますが、それについては証言があります。
トリカブトを原料として漢方製剤を製造販売している製薬会社がありますが、その
会社のM研究室長は、「受容体の結合部位は四つに分かれていて、フグ毒の結合
部位は受容体部位1番、トリカブト毒の結合部位は受容体部位2番と、両毒に結合
部位は相違する」 という主旨の証言をしています。このことから、薬理作用を及ぼ
す器官.組織の受容体への結び付き方についても両毒は互いに干渉することなく、
ここでも拮抗作用の影響は現れないことになります。

 では、心臓における両毒の拮抗作用が、どのような原理で現れるかを簡単に説
明します。正常な心臓の拍動は、洞結部で発生する電気的刺激が心室に伝わり、
細胞膜の膜電位が上昇し閾値に達すると、細胞膜のナトリウムチャンネルが開い
て、プラスのナトリウムイオンが細胞内に急激に流入し、膜電位がプラス側に変化
して、カルシウムイオンが細胞内に急激に流入してきて心室の収縮が行われます。
その後放電がありナトリウムイオンなども細胞外に流出して、細胞膜もマイナスの
膜電位に戻ります。これが一回の拍動です。血液にトリカブト毒とフグ毒が存在すると、
トリカアブと毒は心室の細胞膜にあるナトリウムチャンネルの受容体2番に結合し、
フグ毒はナトリウムチャンネルの受容体1番に結合しますが、トリカブト毒はナトリウム
チャンネルを開くことにより興奮状態にするのに対して、フグ毒はこれを閉じることにより
興奮を抑制するすることになります。トリカブト毒が受容体2番に、ある量だけ結合すると、
心室の興奮状態が異常となり、心電図異常が確認されます。その結果が死に至る閾値
に達すると心室細動が現れ中毒死となります。両毒の拮抗作用は、右の場合に、フグ毒
が受容体1番に、いかに結合しているかによって拮抗作用の強さが変わります。

それでは、両毒の拮抗作用は、どのような段階に至って現れるのかを検討します。
 
40-1 引用 P214 
 
薬物の薬理作用について、東北大学のM教授は次のような主旨の証言をして
いる。
一般的には、薬物作用を及ぼす器官、組織にはその薬物に対する受容体(リセ
プター)というものが存在し、薬物が血液で運ばれて体内をぐるぐると回り、その薬
物が、たとえば心臓のリセプターに一個付いただけでは発現しないが、閾値という
のがあり、閾値を超えた量、その薬物が薬理作用を及ぼす特定の器官、組織の
リセプターに付くと症状が現れてくる。その現れ方も薬物によっては急激に現れて
くるし、薬物によってはゆっくり現れるということがある。
薬理効果を示す濃度と、血中の濃度は、かならずしもパラレル(平行)ではない
。血中濃度が先行して、それから薬理作用を及ぼす器官、組織の濃度が高くなる
、それには相当時間のタイムラグがある。
 
この証言がヒントになりますが、両毒の受容体への結合が進んでいく段階で拮
抗作用が現れ、その拮抗作用の強さは、両毒の受容体(リセプター)への結合す
る量の差に影響されます。
 東北大学のO教授は、「受容体の結合部位の親和性という点から、トリカブト毒
がフグ毒より長く結合している」 という主旨のの証言をしています。この証言とM
教授の証言を合わせて考えると、次のようなことが言えます。ただし、何個という結
合個数は仮定の話で、証言などに根拠を求めることはできません。なお、体重五〇
kgのヒトの両毒の致死量が二mgと同量であることも、受容体部位への結合個数と
、心電図異常が現れる閾値(反応や変化を起こさせるのに必要な最小の値) との
関係を考える場合に参考になると思います。たとえばトリカブト中毒では、摂取から
五分後に四個のトリカブト毒が受容体部位2番に結合して心電図異常が現れます。
 ところが血中にフグ毒が存在する場合、受容体部位1番にフグ毒も結合し、トリカブト毒
の効力を打ち消します。しかし、受容体部位への親和性により、トリカブト毒がフグ毒より
長く結合しているということですから、トリカブト毒がフグ毒より受容体部位への結合が早く、
遅くまで結合しているのです。両毒の血中濃度が同じでも、受容体部位への結合はフグ毒
が少なくなります。

 たとえに戻りますと、トリカブト毒は五分後に四個、一〇分後に八個結合しますが、
フグ毒は五分後に二個、一〇分後に四個結合します。すると、トリカブト毒から
フグ毒を差し引くと、トリカブト毒は五分後に二個、一〇分後に四個となり、一〇分
後に心電図異常が現れることになります。この結果、トリカブト毒を単独で服用した
場合に比べて、両毒の血中濃度が同じでも、親和性の違いから、両毒の拮抗作用
によって心電図異常が現れる時間が二倍に延長するのです。
 致死に至る時間についても同じことが言えます。トリカブト中毒では摂取から五
〇分後に、三〇個のトリカブト毒が受容体2番に結合して死亡するとします。ところ
が血中にフグ毒が同濃度存在し、五〇分後に一五個のフグ毒が受容体部位1番
に結合し、トリカブト毒の効力を打ち消します。この状態では、トリカブト毒が受容体
2番に一五個結合したときの心電図異常は現れますが、死には至りません。その
後、摂取から一時間四〇分後に、トリカブト毒が受容体に六〇個、フグ毒が三〇個
結合して死に至ります。
 両毒の拮抗作用を、このように単純化して考察すると、以外に理解しやすいと思
います。マウスやラットで両毒の拮抗作用の実験をしたO教授の次の証言は、フグ
毒の血中濃度が低ければ、それだけ受容体部位1番への結合が少なくなることが
理解できます。
 
40-2 引用 P226-P227
 
O教授は、両毒の投与比率を変えた場合の生存時間の延長について、次のよ
うな主旨の証言をしている。
アコニチンを致死量の約五倍投与するのに対して、同時投与するテトロドトキシ
ンの投与量を、致死量の一倍、二倍、三倍、四倍と変えて実験してみると、生存
時間の延長倍率は一・二倍とか一・五倍とか二倍とかに変わってくる。致死量の
約六倍の投与量は、比較的顕著に延長する投与量を選んでいる。
 
40-3 引用 P229
 
両毒をヒトに同時に投与したときの症状の現れ方について、O教授は次のよう
な主旨の証言をする。
両毒の拮抗作用により、投与から発症、発症から致死まで、経過時間がそれ
ぞれ平均的に約二倍に延長する。
両毒の桔抗作用があっても、症状は、初期、中期、末期と、順次出現する。
両毒の拮抗作用があっても、しびれ感などの初期症状が出現しないわけでは
なく、遅れるだけである。
 
また、この証言も、受容体への親和性の関係で、結合がトリカブト毒よりフグ毒
が弱いとしても、時間の経過に伴う両毒の受容体への結合が、正比例するように
結合していくと考えられることから当然のことと理解できます。



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