事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
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全文-37 (2013/03/01(金) 20:48:20)
2012.05.08

 全文-37

 〔第二の条件を〕 を説明します。

 「利佐子は空腹状態で消化のスムーズな抽出エキスを摂取したとされており、心
肺停止まで治療は一切受けておらず、嘔吐物も排泄物もないことから、吸収を阻
害する要因は一切なく、やはりグラフの描く血中濃度時間曲線は上に膨らむ釣り
鐘状の曲線になります。」
利佐子はカプセルを服用したと仮定した午後〇時四三分には空腹状態であり、
その後も一切飲食はしておらず、空腹状態は続きます。発症してから心臓停止に
至るまでの嘔吐の症状と治療の状況は、友人たちの証言では、発症時、強い吐き
気を訴えますが、胃液様の物を若干はいただけということですし、救急隊員の証言
からは、「嘔吐物はない」 心肺停止に至るまで、特に処置はしていない」 というこ
とがわかり、排泄も確認されていません。
 このことから利佐子は、カプセルを服用してから心肺停止に至るまで、空腹状態
で、嘔吐物も排泄物もなく、下剤の投与などの治療行為も受けておらず、小腸から
の吸収を阻害する要因は一切ありません。よって利佐子の場合も、(第一の条件)
をそのまま適用することができ、グラフの描く血中濃度時間曲線は、上に膨らむ釣
鐘状の曲線になります。

 ところで、図1のグラフにおいて、原点0からの血中濃度の立ち上がりが、最初
はなだらかに立ち上がるのではないか、との疑問がわいて当然といえます。私はこ
のグラフを描くとき、このことをグラフの上で表現すべきか考えました。しかしこのこ
とを表現したグラフを描いても、図1とほとんど変わらない結果となることから、最初
の立ち上がりの状況をグラフに表現することは省略しました。
省略した理由を説明しますと、図1では原点0から吸収が開始されるように表現
してますが、実際の吸収開始はそれよりも早くなります。服用した三重のカプセル
が一三分後に胃または移行中に溶解すると、内容物はすべてが一気に溶出し、服
用して一三分後から、トリカブト毒の濃い濃度の胃液が小腸に移行します。すなわ
ち、実際には、カプセルを服用してから一三分後にはトリカブト毒の吸収が開始さ
れ、利佐子は空腹状態であるため、その七分後には多くのトリカブト毒が小腸に移
行し、カプセル服用から二〇分後の図1の原点0の時点では、小腸内でのトリカブ
ト毒の濃度はきわめて高くなり、血中濃度は急激に上昇していくことになります。
 この初期の血中濃度の動態を図1に表現するとすればカプセルを服用してから
一三分後に血中濃度はなだらかに立ち上がりはじめ、数分間、下に膨らむ曲線の
軌跡を描いて血中濃度は上昇し、原点0近辺で上に膨らむ曲線に変わり血中濃度
は急激に上昇していくことになります。この血中濃度の動態をグラフに描くと、原点
0では図1のグラフより血中濃度は高くなりますが、その後の血中濃度の動態は図
1のグラフとほとんど変わりません。

 また、服用から一三分後までにカプセルが胃から腸に移行し、小腸でカプセルが
溶解したとすると、その時点で一気に内容物が溶出し、小腸内でのトリカブト毒の
濃度は最高に達し、カプセル服用から一三分が経過した時点で血中濃度は急激
に上昇していくことになり、Y軸上の〔第五の条件〕 で示した三つの条件の血中濃
度は若干高くなります。図1のグラフを描いた目的は、〔第五の条件〕 の三つの時
点の血中濃度の上昇のあり方を判断することであり、その三つの時点での血中濃
度の値が高く表れることには、目的からして何らマイナスとはならず、図1のグラフ
のような〔第二の条件〕 による曲線の描き方をして一切矛盾はありません。
なお、〔二つの時間〕 を二〇分間としたことは、カプセルを服用してから吸収開
始までの考えうるあらゆる条件を包括して設定してあり、いま述べたように、空腹状
態の場合は、〔二つの時間〕 が二〇分間より短くなり、二〇分間を超えることはあ
りません。
以上が、グラフの立ち上がりの細かい表現を省略した理由です。
 
〔第三の条件〕 を説明します。
「発症から心肺停止までの経過時間は四三分間です」
 
37-1 引用 P59
 
利佐子を解剖した琉球大学医学部O助教授の尋問調書によると、利佐子が
死亡した翌日、八重山警察署から、何時何分にどういう症状というメモをもらい、
午後一時二七分、嘔吐がはじまったということで、その時間をいちおう発症と考えた、と証言している。
 
利佐子の発症時刻が午後一時二七分であることは、第四章の「発症時刻は午
後一時二七分」 で説明したように、確定できます。心肺停止の時刻は午後二時一
〇分頃であることは、判決も認定していて問題はありません。
発症時刻が午後一時二七分、心肺停止時刻が午後二時一〇分、その間の経過
時間は、四三分間です。図1のグラフでは、X線上に、「x」 として発症時刻を、「a」
として心肺停止時刻を、その間を「〔第3の条件〕、aマイナスx、四三分間」 と表示
してあります。
この午後一時二七分(x) の血中濃度を算出して、次の標題で、通常のトリカブ
ト中毒における発症時の血中濃度と、比較して盛ることになります。
なお発症時以外でも、通常のトリカブト中毒における血中濃度とひかくするため
に、Vホテルに到着したころ「x’」 と、チェックインを終了したころ、「x’’」 の血中濃
度を算出してみます。とくに、チェックインを終了するまで何ら自覚症状を訴えてい
ないという点で、この時点の血中濃度の数値を検討することは非常に大切です。
 
〔第4の条件〕を説明します。
「心肺停止時のトリカブト毒の血中濃度は、一二五..七ng/ml以上です。」
利佐子の血液から検出されたトリカブト毒が、血液の保管中に混入されたもので
はなく、利佐子の体内に存在していたものだと仮定した場合、心肺停止時のトリカブト毒の血中濃度は、
一二五..七ng/m以上が確定し、一二五..七ng/m未満になる可能性は一切ありません。
 
37-2 引用 P227-P228
 
東北大学M教授による鑑定書の利佐子の血液のトリカブト毒の鑑定結果は次
のとおりである。
アコニチン   二九.一ng/ml
メサコニチン  五一.〇ng/ml
ヒバコニチン  四五.六ng/ml
 合計    一二五.七ng/ml
東京大学N講師による鑑定書の利佐子の血液のフグ毒の鑑定結果は次のと
おりである
テトロトドキシン等二六..四ng/ml
 なおこの測定値には、テトロトドキシン以外にその変換物質である四-エビテトロ
トドキシン、テトロドン酸を含み、その比率は、三対四対一二六であり、ほとんどが
テトロドン酸に変換している。
 
利佐子の保存血液のアコニチン系アルカロイドの三毒素の含有量は、右鑑定結
果のとおりですが、これら三毒素の代謝物や分解物は、測定の対象になりません。
三毒素の含有量は、心肺停止後、約二二時間冷凍保存された遺体から採取した血液を、
約五年間冷凍保存して鑑定した結果ですが、心肺停止後に血中濃度がどのように変化するか
ということについて、二つの問題を検討する必要があります。一つは、心肺停止後に、血中濃度の
上昇があるかという問題、もう一つは、心肺停止後に、代謝や分解があるかという問題です。



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