事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
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全文-36 (2013/02/27(水) 20:43:21)
2012.05.01

 全文-36
 
カプセルを服用してから小腸で吸収がはじまるまでの最長時間を判断するため
に、この過程を二つに区分します。一つは、カプセルが溶解する時間、もう一つは
胃から小腸へ移行する時間です。これを〔二つの時間〕 と規定したのです。ただ
し実際には、カプセルは溶解しながら胃から小腸に移行しますから、この二つの
時間は重なりながら作用します。よって「二つの時間をプラスしたものより短い時
間になる」 といえますが、最長時間を確定するために二つの時間に分けて考察
しています。
カプセルの溶解時間は、判決が推認するように三重にしたとすると、三重にし
た場合の最長時間一二分一五秒を採用し、一三分程度とします。
 
引用 36-1 P209-P210
 
カプセルの溶解時間について、千葉大学のY教授の鑑定書によると、摂氏三
七度に保たれた水中でのカプセルの溶解時聞は次のとおりである。
一重の場合、一分二七秒から一分四O秒、五例平均で一分三五秒。
二重にした場合、一分五O秒から三分三八秒、五例平均で二分五四秒。
三重にした場合、九分四六秒から二一分一五秒、五例平均で一O分四二
秒。
 
 空腹時の抽出エキスの胃内容排出時間は、第四章六「トリカブト中毒の発症と
個人差」 で説明したように、五つの症例2から五分以内となります。
「二つの時間」 の最長時間で、カプセルの熔解時間を一三分程度としたことは
、カプセルが小腸に移行せず胃で溶解することを想定していますから、胃から小
腸に移行するのはカプセル溶解後の抽出エキスということになり、胃内容排出時
間は五分以内となります。
 よって、カプセルの熔解時間一三分程度と、胃内容排出時間五分以内を加え
て、「二つの時間」 は一八分程度となります。これは最長時間ですが、実際には
カプセルが溶解しながらその内容物と共に小腸へ移行するのですから、この重な
る作用の時間が差し引かれ最短時間はカプセルを三重にした場合は一三分程
度です。
 
引用 36-2 P210-P211 
 
腸溶性製剤カプセル剤の胃から小腸への移行について、千葉大学のY教授
は次のような主旨の証言をする。
腸溶性製剤カプセル剤を空腹時に投与すると、胃から小腸には、ほぼ瞬間
的、あるいは一O分とか、二O分とか言われているが、かなり早い時期に小腸に
移る。食事後は食べ物を胃の中で消化するという役割があり、食後に腸溶性製
剤カプセル剤を飲むと、小腸にいくまでに、早いもので、二O分とか三O分でいく
が、あるときには数時間かかるということもある。それは確率的な問題で、コント
ロールはできないと思ったほうがいい。
腸溶性製剤カプセル剤は、小腸で速やかに崩壊する。
 
この証言から、第三章七「判決はカプセルの細工に触れない」 で説明した腸
溶性製剤カプセル剤の空腹状態での胃内容排出時間は、ほぼ瞬間的か遅くとも
二〇分以内と理解できます。当然、三重にした通常のカプセルはこの二〇分以内
で溶解してしまいますし、二重にしたカプセルなら四分以内で溶解します。溶出し
た抽出エキスが胃から小腸へ移行するのに五分とはかかりませんから、これらの
事実から、Y教授の証言を参考にして、「二つの時間」 を二〇分間と設定すれば
、これ以上の確実性はないと判断しました。
説明のとおり、最長時間として、「二つの時間」 を二〇分間と設定しましたが、
図1では、午後〇時四三分の服用から、午後一時三分の吸収開始までのあいだ
を、「二つの時間」 として、二〇分と表示してあります。

 
トリカブト毒の吸収が開始されてから、血中濃度がどのように上昇するか、四つ
の条件との関連を説明します。
図1では、午後一時三分に吸収を開始して、午後二時一〇分に心肺停止に至
るまでの血中濃度の上昇のあり方をグラフで示しています。ただし、グラフの曲線
は、図1のような曲線になるとは限りません。図2、図3、図4のようになる可能性
もあります。しかし、図5のようにはなりません。その理由を説明します。

図-1
グラフ-1 
クリックで拡大します。
 
 36-3 引用 P287 血中濃度の図 2~5図
グラフ-2
クリックで拡大します。 
 
 利佐子の心肺停止時の血中濃度は、125,7ng/mlでした。心肺停止後の血中
濃度の上昇はないと、二名教授が証言していますので、心肺停止時に最高血中
濃度に達していた可能性があります。それが図2です。心肺停止に至る薬理作用
を及ぼすまでの経過時間が、最高血中濃度のあとになる場合が考えられます。
それが「図3」 です。トリカブト毒については、アコニチン系毒素の代謝物ないし
分解物は測定されていませんので、それらを測定すれば、血中濃度で125,7
ng/mlより高かった可能性があります。それが図4です。いずれにしても、心肺停
止時の血中濃度が125,7ng/ml未満という可能性はなく、図5のようになること
ありません。なお、これらについては、〔第四の条件〕 のところで詳しく説明しま
す。
図一から図四までグラフを確定するの条件は、〔第一の条件〕 から〔第四の条
件〕 まで以外に加味すべき条件はいっさいありません。図1における〔第五の条
件〕 は、それぞれの時刻における利佐子の血中濃度を算出した物ですが、図1
に比べて、図2から図4のグラフの曲線は若干上に膨らみを持つ曲線になり、〔第
五の条件〕 の血中濃度がその分増えることになります。この違いだけです。この
先、〔第五の条件〕 を確定させるとき、血中濃度に「以上」 を付けますので、グラ
フを「図1」 代表させて問題は生じません。
図1の五つの条件のうち、〔第1の条件〕 から〔第3の条件〕 までは利佐子の
具体的条件として確定しており、変更することが不可能な条件です。よって、四つ
の条件から算出した〔第五の条件〕 に示した血中濃度も、変更は不可能といえ
ます。そこで、次の標題で検討するトリカブト中毒の発症時の血中濃度と比較す
ることによって利佐子の死因がトリカブト中毒か否かが明らかになります。
なお、フグ毒については、血液からの検出量が致死量に至らず、フグ中毒で死
亡したと仮定する必要は全くなく、単にトリカブト毒との拮抗作用の問題だけなの
で、拮抗作用の説明が必要なところで搭乗させるだけにしています。
 
〔第1の条件〕 を説明します。
「トリカブト毒の吸収は受動輸送により、そのうちでも単純拡散、特に溶解拡散
によって行われ、縦軸(Y軸)を血中濃度の上昇、横軸(X軸)を時間の経過として
グラフに表すと、その曲線は上に膨らむ釣り鐘状の曲線になります。
 
36-4 引用 P213
アコニチン系薬物(トリカブト毒) の吸収特性について、共同鑑定書(東北大学
三教授)は次のように解説している。
アコニチン系薬物の吸収を考える場合、これら薬物に対して特異的に反応する
担体が消化管の細胞膜に存在する可能性は少なく、その吸収は受動輸送による
ものと考えられ、その内でも単純拡散、特に溶解拡散によって行われるものと推
定できる。
溶解拡散の特徴としては、(a) 濃度勾配に逆らっての輸送は行われないこと、
(b)エネルギー源や代謝阻害剤の存在によって影響されないこと、(C) 類似薬物
が複数存在しても相互に干渉がないこと、及、び(d) 油―水間分配係数の大きい
ものほど透過性、が大であること、などが挙げられる。
したがってアコニチン系アルカロイドの体内吸収速度は、(a) により摂取された
各薬物の濃度に依存するが、体内吸収速度を支配する主な要因としては (d) の
分配係数が問題となる。
 
共同鑑定書では、アコニチン系薬物の吸収は、特に溶解拡散によって行われ
ると推定し、溶解拡散の特徴を四点列挙していますが、それを私は第三章六「カ
プセルの熔解時間と吸収後の動態」 で簡単に説明し、トリカブト毒のスムーズな
吸収を阻害する要因は小腸内には存在せず、類似薬物が存在しても干渉されず
に、小腸内のトリカブト毒の濃度の濃淡に比例するような吸収速度で吸収される
と開設しました。
 また、トリカブト毒のグラフの曲線について、共同鑑定書の鑑定人O教授とS教授は次のような主旨の証言をしています。
 
36-5        引用 P294
 
トリカブト毒のグラフに描かれる血中濃度時間曲線について、血中濃度を縦軸
(Y軸)、時間の経過を横軸(X軸)で表示した場合、O教授は、「ある程度まで急に上
昇し、ある程度からだんだん下がっていくような、上に膨らみを持つ曲線になる」と
証言し、S教授は、「西洋の釣鐘のような形で、左右対称ではなくて、吸収のほう
が非常に上がっていき、ある時間はゼロで、それからなだらかに下がっていく」と
証言している。
 
第四章八「小麦粉の混合? それは影響ない」 で記述した、東京理科大学F
教授の鑑定書に描かれているテオフィリンのグラフの曲線もこの二教授の証言に
適合し、図1のように原点0(X軸とY軸の交点) から血中濃度が急激に立ち上
がるように描かれており、通常の薬毒物の描く血中濃度時間曲線は、この証言の
ようになると考えられます。図1から図5までのグラフの曲線は、この証言の示す
ように描いてあります。


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