事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
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全文-13 (2013/01/31(木) 19:28:17)
2011.12.19
 
 全文-13

 五 黒子がしゃしゃり出て演技する心境

 「七重八重、掻き回せども味噌汁の、実のひとつだになきぞ悲しき」などと、稚拙な
駄洒落を口にしながら、朝食の味噌汁を掻き回します。給食を担当する人は何十人と
配色して回りますから、味噌汁の容器を一人ひとりいちいち掻き回してから、食器に
つぐわけにはいきません。年に二.三度ですが、私は味噌汁に、恨めしそうな目で訴
えてから、無性に腹が立ってきます。もちろん、自分のさもしさにです。拘置所での一
番の楽しみは、食生活と言えます。
三食のうちで朝食が一番腹に染みます。午後四時に夕食を済ませてから、翌朝七
半ころの朝食まで、口は食べ物と挨拶を交わすことはありません。朝の食べ物との
出会いに、いつも同じように感激します。一汁二菜が付く昼食や夕食と違い、朝食は
麦飯に味噌汁、それに振掛けや佃煮など二品が、日替わりで少々付く程度の質素な
ものです。それでもクークーと鳴り物入りで訴える、背と腹がくっつきそうなおなかは満
足してくれます。

 経済的に豊かなら、甘味なものは、日常的に口にすることができます。私の大好物
のショートケーキなどと贅沢を言わなければ、せんべいにキャラメル、あんパンにチョ
コレートなどの多くの庶民的な甘味物や、牛乳、納豆、練乳、マーガリン等が購入でき
ます。私は、加糖の練乳とマーガリンを等量練り合わせて、パン食のときの、パンに
ぬって食べるのが好きです。下手なカスタードクリームより、よほどうまいのです。チュ
ーブ入りの練乳も安価ですし、マーガリンも安く、経済的に豊かでない私は助かりまし
た。この頃、マーガリンはバターより健康によい食品だと言われてました。
私は久しぶりのクリームパンを頬張り、味わいながら少しずつ飲み込んでいきま
す。小机の上には、まだ、あんパンがあり、にやりとします。明日からの第二十八回公
判を前にして、至福のひとときでした。

 第二八回公判に臨んだ私は、東北大学M教授の証言を聞いて挫折感を味わいま
す。警視庁捜査一課のY警部補が抽出・濃縮を行い、二号カプセルに詰めた物質を、
M教授は鑑定してY鑑定書として提出し、証言しているのです。そのカプセルの鑑定
結果では、トリカブト毒が致死量の約二七倍詰められていると説明します。挫折感を
味わいながら聞いていた私は、この後半の直前、一月下旬に弁護人に届いた、「共同
鑑定書」 を借りて目を通しはじめます。
「共同鑑定書」 は、東北大学のM教授、O教授、S教授の三教授が共同で鑑定を
行い提出した鑑定書です。鑑定書は、Ⅰ鑑定事項、Ⅱ鑑定事項、Ⅲ鑑定事項、Ⅳ鑑
定事項、の四項目に分かれています。その中に参考資料として、私の事件を判断す
る上で、非常に重要な事実や例示が記載されてます。記載の量が多く、内容が多岐
にわたるので、十分な時間を持って詳細に調べなければなりません。
公判中調べる時間のない私は、Y鑑定書に関わる内容がないか、飛ばし読みのな
かから、拾いこみを行います。ありました。季節を違えて採取した三十一個のトリカブ
ト塊根を、M教授自ら、一個ずつ、抽出・濃縮し、鑑定した結果です。M教授自らが、
鑑定資料を準備し、鑑定したのです。これほど確実な鑑定結果は望めません。私はこ
の鑑定結果を、メモにして持ち帰ります。

 私は、この第二八回公判で、裁判長の制止も構わず、弁護人と小声で証人尋問の
打ち合わせをします。制止など、構っていられなくなったのです。弁護人の証人尋問
に、もどかしさを、感じはじめたからです。裁判長は、これ以来、私が証人に質問でき
るように、かなりの質問時間を設けます。これは、私への便宜を図るためではなく、有
罪との心証を決した余裕から、裁判の進行を遅らせないための便法と私の目には映
りました。裁判官の態度と表情でわかるのです。検察官が証人に尋問し、証人が答弁
するときは、証人への裁判官の態度は穏やかです。私が証人に質問し、証人が答弁
するときは、裁判官の証人への態度と表情は変わらず、私へ向けられたとき、口をへ
の字に結び厳しい表情に、がらりと変わります。私は気のせいであることを願います
が、私が質問に立つたびに、その感覚は私の心に蓄積し、ぬぐいようがありません。
この感覚とともに、私は弁護人への気遣いから疲れを感じはじめます。弁護人との
打ち合わせのない、独断での私の質問、弁護人の証人尋問の口数が少なくなってい
きます。弁護人が何を意図して、証人尋問を組み立てているのか配慮していない私
の態度が、弁護側の弱点をさらけ出していることを、私は気がつきませんでした。この
弱点が、のちに、私が公判の雰囲気から、浮き上がった存在に感じることにつながっ
ていきます。弁護人への筋を違えた気遣いをしながら、ひとりで張り切っていたので
す。

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