事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
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全文-10 (2013/01/31(木) 18:57:52)
2011.11.29

 全文-10

 苦労して聞いていたわりには、証言の内容はお粗末きわまりない物です。F教授
は、学会での研究発表だけにしておくべきでした。利佐子の具体的条件に照らしてみ
れば、まったく場違いの研究発表です。だが待てよ? 私は証言を聞き進むうちに、こ
の研究が警視庁科学捜査研究所からの鑑定嘱託によって、三年ほど前からはじめら
れたことがわかったのです。私の逮捕が約二年五か月前ですから、それ以前から当
裁判を目当てにして研究が進められていたことになります。それならわかります。
検察官がやけに熱心な理由が。

 鑑定内容の詳しい解説は第2章に譲ることにして、なにを言わんとしているかを、
簡略に説明します。この鑑定は、発症時間にかかわるものではなく、カプセルの服用
から、死亡に至るまでの、経過時間に関係するものだということを、まず指摘しておき
ます。利佐子は午後二時十分に心臓停止に至り事実上死亡しますが、その時刻から
約四時間前にカプセルを服用した可能性があることを、明らかにしようとする意図を
持つ鑑定です。その条件として、小麦粉と混合して、利佐子はトリカブト毒の血中濃度
が、服用から約四時間後に最高血中濃度に到達したときに死亡したという前提に立ちます。

 私はこの鑑定結果が、利佐子に適用できないことに、公判がはじまって二時間ほど
経った時点で気がつき、検察官とF教授の、馴れ合いを思わせるやり取りを聞いてい
て、ばからしくなってきます。F教授は、「最高血中濃度到達時間は作用が最も強く現
れる時期で、そのところで死に至る可能性がある」 と証言します。それを受けて、検
察官は、最高血中濃度と致死との関係を強調し、利佐子がカプセルを服用して、四時
間ほど経過してから死亡したことを、印象づけようとF教授と盛んにやり取りを繰り返
します。

 利佐子は午後二時十分に心肺停止に至り事実上死亡しますが、仮にトリカブト中
毒死とすれば、保存血液の濃度から、体内総毒量は約五,九mgと推認されており、
致死量の約三倍です。F教授がスクリーンで描いているグラフは、一時間後、二時間
後、四時間後と血中濃度を直線で結んでいきますが、その直線のつながりの形から、
上に膨らむ曲線になることがわかります。

 利佐子の死亡から四時間前の午前十時十分にカプセルを服用したとすると、その
後の利佐子の血中濃度の動態は、二時間後の南西航空に搭乗して間もない午後0
時十分に、致死量の約一,五倍の三mg程度、三時間後は元気にチェックインの手続
きをしていますが、その状況を無視して検察官が発症時刻と主張する午後一時十五
分に、致死量の二倍を超える四,五mg程度、そして、死亡する午後二時十分に、致
死量の約三倍の五,九mgに達するのです。

 なにがばかばかしいかは、説明する必要もないほど明らかです。服用から発症ま
で約二時間を立証するために、涙ぐましい努力をしたことはうかがえますが、苦肉の
策にすぎません。
私は弁護人に頼んで、利佐子の具体的条件を挙げて、F教授に質問してもらいまし
た。それに対してF教授は、「そのことについては、私は何とも申し上げられない立場
でございますので」 と答えます。私は、口を噤んで叫びました、「あなたは、どこで証
言していると思うのだ! ここは殺人事件を裁く法廷にほかならない。あなたは、一人
の人間を陥れる手助けとなる証言をしているのだ。『私は何とも申し上げられない』
と言うがすでに多くを物語っているではないか」 と。学生を教える立場の人が、この
ような無責任なことでいいのでしょうか。

 この鑑定に関する公判は、二日間、六時間ほど費やして証人尋問が行われまし
た。研究発表の準備にかける費用と労力は、相当にかかったようです。内容の希薄さ
に比べて、このあたりの舞台装置を見ると、検察官の立場の強さをつくづく感じてしま
います。私にこれだけの費用と労力を与えてくれるなら、私の意にかなった鑑定
の実施によって、無罪を間違いなく勝ち取る自信があります。国選弁護人の先生は、
国から支払われているわずかな弁護料でよくやってくれています。ですが、熱意を持
って動けば動くほど赤字になるといいます。検察側のせめて三分の一でいいのです。
権力を武器にした鑑定嘱託と、その裏付けとなる費用が弁護側にあったなら、このよ
うな理不尽さは、簡単に打破できるのですが。被告人とは、なんと弱い立場なのだろ
うと、私は、第二五回公判のこの日、しみじみと味わいました。

 四 効果的な抗弁が組み立てられない
 
 裁判が開始されて、ほぼ二年が経過しました。東京拘置所の窓から眺める四季
折々の庭の風情に、私は飽きることがありません。
冬の気温の低い日は、体が震えて止まらないことがあります。昼、ペンを持つ手が
かじかんで、文字が進まなくなり、窓の外に目をやると、土鳩が前の建物の梁に鈴な
りです。強い鳩、弱い鳩、その駆け引きを見ていて、その面白さに心が安らぎます。山
鳩も庭の低木に巣を作り、餌を求めて庭をよちよちと歩きます。その美しい姿に気品
を感じますが、冬は姿をあまり見かけなくなりました。
春は桜の季節です。庭の染井吉野が満開になると、清楚さや華やかさを誇るよう
に、語りかけてきます。染井吉野が散ると、間もなく八重桜が満開となり、重厚さを押
しつけるように、、にぎやかに話しはじめます。染井吉野は花が散ってから若葉が顔
を出しますが、八重桜は花と若葉が一緒に顔を出します。その違いでしょうか、私の
心に醸し出す和やかさは微妙に変わるのです。

 夏の虫たちとの遊び、ぶつぶつと話しかけて独りで相槌を打ちます。夜中のゴキブ
リ君との一騎打ちは相変わらずですが、昼間、もぞもぞと虫が出て来ます。彼らは先
祖代々、ここの住人のようです。流し台の下が彼らの居住区とわかりますが、居住権
があり、追い出すわけにはいきません。追い出されるとしたら、あとから住んだ私のほ
うです。ここから、追いだされてみたいものです。
一匹お出ましになり、私は顔を近づけてよく見ます。遊んでも面白くないので、草鞋
虫君なら無視します。私が遊ぶのは団子虫君です。扁平なら草鞋虫、丸みがあったら
団子虫、体の色はともに灰褐色色ですが、団子虫が濃い色をしています。お出ま
しは団子虫君です。私が人差指で、体を上から軽く押さえつけて、指を離すと、団子
虫君は体を団子状に丸めます。指ではじいて転がしますが、よく転がります。目、ある
のかな、目が回らないだろうか。畳の上では、背を下にして体を開いてくるりと反転し
て簡単に起き上がりますが、私は丸まった団子虫君を真っ平らな机の上に置きます。
団子虫君、かわいそうに、体を開いて、よいしょよいしょと、たくさんの手足をばたつか
せますが、体を反転できず起き上がれません。三十分ほどもがいていた団子虫君、
疲れたらしく、もがくのをやめて動かなくなります。私は人差し指で畳の上に転がして
やります。団子虫君は起き上がると、慌てたように逃げていきました。

 秋になると柿の木が実を付けます。拘置所に柿の木、庭の幅は、同じ作りの前の
建物まで、三十メートル弱です。初めての秋、私は窓外の香木が柿の実を付けたの
を見て驚きました。柿の実は豊かに生りますが、カラス君が枝に留まってもついばみ
ません。渋いのでしょう。実が地面に落ちてしばらくすると、カラス君がついばみはじ
めます。私は話しかけてみました。実は甘いのかと。カラス君はついばみに夢中です。
私も手にしたいと思いますが、それはかなわないことでした。

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