事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
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全文-09 (2013/01/28(月) 22:11:15)
2011.11.24

 全文-09

 三  証人尋問調書が手元にない悔しさ

 夏の暑さはまた来年、喧嘩仲間も訪れない涼しい静かな季節を迎えました。この季
節になると、銀座の町の風情がよく思い出されます。拘置所に閉じ込められても、銀
座の町とはまったく無縁ではありません。公判がある日、護送車は裁判所への行き帰
り、銀座四丁目の交差点を通過します。車窓からは、銀座の町を、眺めることできる
のです。銀座の秋は、私にとって人生を分外に踏み違えた季節です。少年のころから馴染
んでいた革新政党に、青年時代に入党し、専従活動家として汚れのない生活を送っ
来ました。三二歳で革新政党を離れます。会計事務所などの勤めを経て、三三歳の
秋、P社に入社し経理課に所属しました。さっそく銀座への飲み歩きの洗礼を受けま
すが、その伝票が数日後に経理課にまわってきます。一般社会の裏のシステムを知
らなかった私も、そのからくりを一つひとつ覚えていきます。免疫体のない私の心身
は、悪い慣習に抵抗することなく犯されていきました。

 入社後二年ほどで経理課を任されるようになると、不正行為で得た資金で、銀座に
個人的に飲みに行くようになります。アルコールに弱い私は、店の雰囲気と女性との
会話が楽しいのです。私の通う銀座の店は、個人的に行くようになってから、約十五
年間替わっていません。ホステスさんを追いかける男性は多いと聞きますが、私はホ
ステスさんを追いかけたことはなく、本支店合わせて四店あるその店に居着いてしま
いましたが、経済的に援助をした数人のホステスさんを含めて、肉体関係を求めたこ
とは一度もなく、手を握ったことことすらありません。女性の笑顔を見たさに、会話をし
、援助をしたのです。少年時代から蓄積した女性観が、寸分も変わることなく生きてい
たといえます。その店から受けた心の温まる思い出は、自由を奪われる身となってか
らも忘れることはできません。
裁判所からの帰りが遅くなり、手錠と腰縄という惨めな姿で、ネオンの輝きを増した
銀座の町を、眩しく感じながら通ることが有ります。車窓から見る銀座の町、いつまた
自由に散策できるか、気が遠くなる思いがしました。

 私の公判での闘いは、利佐子が服用したとされる、カプセルに詰められるトリカブト
毒の毒量の問題からじまります。トリカブト毒は、経口的にそのまま摂取すれば、苦み
を伴う強いひりひりした刺激があり、とても耐えられないとのことですから、検察官は、
利佐子はカプセルで服用したと推認します。利佐子がトリカブト毒を服用したと仮定す
れば、この推認に私は意義はありません。
私が購入したカプセルで最も大きい物は、パボランカプセルの、容量0.六七mlの
白いカプセルです。利佐子が服用したと仮定すれば、この白いカプセルに、トリカブト
毒を含む水飴状物質を詰めて服用したことになります。利佐子の保存血液から検出
されたトリカブト毒の毒量は、体重で換算して約五,九mgです。この毒量が白いカプ
セルに詰められるか、が争点です。この問題では、東北大学のM教授が、鑑定結果
の違う三種類の鑑定書を提出しています。

 最初の鑑定書は、一九九二年五月、第九回公判で提出されたもので、警視庁捜査
一課のY警部補が、専門家の指導で、白川産トリカブトの乾燥根2.2gからメタノール
で抽出・濃縮した水飴状物質を鑑定した結果です。鑑定結果は、「乾燥根1g当たり、
水飴状物質の収量は〇.一gです」

 二回目の鑑定は、一九九四年一月に提出された「共同鑑定書」に記載されていま
す。白川産トリカブトの根塊三十一個を、一個ごとにメタノールで抽出.濃縮した水飴
状物質を鑑定した結果です。各個の鑑定結果を平均すると、「乾燥根1g当たり、水飴
状物質の収量は約〇.二三g、それに含まれる毒量は二.六mgです」

 三回目の鑑定書は、一九六四年二月、第二八回公判で提出された物で、最初と同
じY警部補が、白川産トリカブトの生根約一〇〇gからエタノールで抽出.濃縮した水
飴状物質を鑑定した結果です。生根一〇〇gを乾燥させると、約三〇gの乾燥根にな
るとの証言があります。それで換算すると、鑑定の結果は、「乾燥根1g当たり、水飴
状物質の収量は約〇,〇四七g、それに含まれる毒量は約三,六mgです。

 最初の鑑定書が提出された第九回公判で、鑑定結果から、致死量の二mgを含む
水飴状物質が、白いカプセルに詰められるか、私は計算してみました。計算では、カ
プセルが九個以上必要です。公判はすでに九回を経過して、いろいろと調べたいこと
があるのですが、鑑定書や証人尋問調書が私の手元に一冊もなく、検察官の主張に
適切な反論ができません。カプセルが九個以上必要だという結果は、私の悔しさを検
察官にぶつける強力な武器となります。この時点から、利佐子が服用したとされるトリ
カブト毒とフグ毒が、白いカプセルに詰められるのかという問題が、服用から発症まで
約二時間の問題とともに、私の非常に重要な事項となります。

 二回目の鑑定書が提出されたときには、必要最小限度の六冊の鑑定書と九冊の
証人尋問調書が手元にありました。年金で生活している八四歳になる父にコピー代
の借用を申し込み、快い返事を受けて、弁護人にコピーをお願いし、一九九三年一一
月に届いたのです。これらの資料から、二回目の鑑定結果でも、利佐子の体内総毒
量を含む水飴状物質が、白いカプセルに詰め切れないことを明らかにできました。
三回目の鑑定書が提出されたとき、私は挫折感を味わいます。三回目の鑑定結果で
は、容量〇,七mlの二号カプセルに、トリカブトの致死量の約二七倍詰められている
のです。これがが事実なら反論の余地はありません。

 私は第三十回公判で、東北大学M教授に三つの鑑定結果の相違について詳細に
質問しますが、M教授は曖昧な答弁に終始します。
白いカプセルには、フグ毒も詰めなければならないのですが、フグ毒については、
クサフグの肝臓からアルコールで抽出・濃縮したどろどろ状物質の収量や、それに含
まれる毒量の、鑑定および証言は一切なく、私が問題にしたくても、この件に関する
鑑定および証言は一切なく、私が問題にしたくても、その糸口がつかめません。この
件に関する鑑定の申請を、弁護人に依頼しようと検討しているうちに、事実審理が結
審すると知らされて、果たせませんでした。
 
 第二五回公判(一九九三年十一月)で、私は不思議な雰囲気に包まれます。法廷
は薄暗くされ、スクリーンが裁判長の正面、私の真横に据えられます。東京理科大学
F教授の鑑定書をもとにした証言がはじょまると、法廷はまるで研究発表の会場のよ
うになります。F教授はこの研究について、最近、学会で発表したと証言します。
道理で、私はうなずきます。学会での研究発表を、そのまま法廷に持ち込んだと思わ
れる道具立てです。証言の内容も、研究発表をそのまま再現したようなやり取りを
検察官と行っています。

 私は首が痛くなります。スクリーンが真横にあって見にくいのです。正面に向けた
真横にあるスクリーンを見るために、私は腰を前の長机にささえるようにして首を前方
に突き出し、左横を見ながら長時間その姿勢を保っていました。ただ、傍聴席のマス
コミ関係者が、私の表情をうかがおうと、傍聴席の片隅に寄っているので、私はその
視線を避けるために、自らの視界についたてを立てるように、首をできるだけ正面に
向けようと不自然に伸ばしながら横目を使っていたのです。肉体的にこれほど疲れた
公判は初めてでした。

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