事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
201708 << 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >> 201710
スポンサーサイト (--/--/--(--) --:--:--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
全文-06 (2013/01/23(水) 20:04:28)
2011.11.15

全文-6

二 有罪と定められたレールに乗って走っている気分

 暑い、じっとしていても汗が噴き出してきます。私が東京拘置所に収容されたのは、
一九九一年七月二五日です。
夜中に、突然、黒の礼服を着た訪問者が現れます。孤独な私の慰問のためか?それ
にしては、小物を収める棚の近辺を漁っています。私はそっと起きると、ほうきを持っ
て身構えます。出て来た!私は思いきりほうきで叩きます。ゴキブリ君は、布団のヘ
リを伝って一目散に逃げていきました。翌朝、ゴキブリ君の訪門口を探しますが、
コンクリート造りとはいえ、建物が何しろ古い。三畳に、洋式便器と流し台の設置された
一畳ほどの床、流し台の下などは、板が腐り穴だらけです。
毎夜訪ねてきます。二センチほどの黒い光沢のある平べったく横にずんぐりしたやつ
です。夜中でも本が読める程度に明るいので、動きはよくわかります。話し相手のい
ない私は、極悪人扱いされて追いまわされた、やるせない気持ちを、ゴキブリ君にぶ
つけます。ひとわたり棚を探索してから帰途につくのを見計らって、「君も極悪人として
追いまわされているだろう、似た者どうし、さあ勝負」 とつぶやき、ほうきを持って私は
一騎打ちをはじめます。私の勝つ確率は四日に一回くらい、私が勝った次の夜には新手
が一匹繰り出してきます。ひと夜に二匹訪ねてくることはありません。拘置所だからで
しょうか、ゴキブリ君の世界はよく統制が取れているのです。夏のあいだ、ほとんど毎
夜、この戦いを繰り返しました。

 手錠の感触から離れて、すでに三か月が過ぎています。拘置所では、日常生活は
もちろん、所内を移動するときも手錠とは無縁でした。第一回公判に臨むため手首に
手錠がかけられたとき、「ああ、手錠か」 という程度の感触でしたが、公判の回数を
重ねるに従って、手錠の感触は、冷たく心に食い込んできます。
第一回公判に臨んだ私は、気負いだけが心を支配していました手錠が外され、被告人が
控える個室で、開廷を待つ一時間ほどのあいだ、備品の雑誌に目を落としますが、
字面を追うだけで内容は頭に入りません。またか、またか、と三度小用に立ちます。
午前十時、手錠を掛けて入廷し被告人席に着席したときは気持ちは落ち着いていました。
裁判官などはすでに着席しています。正面は一段高くなり三名の裁判官、
一段下がった右側が弁護人席、左側が検察官席です。被告人は傍聴席を背にして、
二名の看守と共に弁護人席に近い長椅子に座ります。前には長机が置いてありました。
手錠が外され、傍聴人が入廷し、裁判が開始されます。私は振り向いて傍聴席を
見る余裕が出ていました。傍聴席はほぼ満席です。人定質問で裁判長の前の被尋問
席に立った私は、質問を受けながら、裁判官の表情の動きを捉えようと努力します。
三名の裁判官も、マスコミの報道に無縁ではないのです。私に対してどのような心証
を得ているのか気がかりです。人定質問が終わり被告人席に戻ってからも、三名の
裁判官の表情を見比べることに、公判が終わるまで、全神経が集中してしまいました。

 検察官の起訴状朗読がはじまると、三名の裁判官は、わずかにうなずきながら聞い
ているように私には感じられます。うなずくとは、合意を表す合図です。午前十時から、
昼食を挟んで、午後三時三十分までの四時間三十分ほどの公判中、検察官と弁護
人がそれぞれ陳述します。それを受け止める裁判官の反応の表情から有罪の心証
に傾いていると読み取りました。気のせいだろうか? 私は首をかしげてつぶやきます。
裁判官がそのような先入観を持って、第一回公判に臨むことはないのかもしれません。

 この杞憂は、逮捕後の取り調べで、カプセルの服用から発症まで約二時間の問
題に、答えが得られなかったことの影響と、私には血液採取後のトリカブト毒の混入
を立証することが不可能で、利佐子の保存血液からトリカブト毒が検出された事実が
私の脳裏で葛藤し心を圧迫していたからです。この圧迫感は、公判が進行するにつ
れて杞憂でないことが明らかになります。
私は冒頭陳述の口述ように文書を用意していましたが、その機会がなく、文書を陳
述書として提出して第一回公判は終わりました。陳述書には、血液からの検出の問
題には一切触れてません。

コメント:
この記事へのコメント:
コメント:を投稿する

管理者にだけ表示を許可する
トラックバック:
この記事のトラックバック URL
この記事へのトラックバック:
(C)Copyright 2003-2007. Powered By FC2. VALID HTML? VALID CSS?
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。