事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
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全文-37 (2013/03/01(金) 20:48:20)
2012.05.08

 全文-37

 〔第二の条件を〕 を説明します。

 「利佐子は空腹状態で消化のスムーズな抽出エキスを摂取したとされており、心
肺停止まで治療は一切受けておらず、嘔吐物も排泄物もないことから、吸収を阻
害する要因は一切なく、やはりグラフの描く血中濃度時間曲線は上に膨らむ釣り
鐘状の曲線になります。」
利佐子はカプセルを服用したと仮定した午後〇時四三分には空腹状態であり、
その後も一切飲食はしておらず、空腹状態は続きます。発症してから心臓停止に
至るまでの嘔吐の症状と治療の状況は、友人たちの証言では、発症時、強い吐き
気を訴えますが、胃液様の物を若干はいただけということですし、救急隊員の証言
からは、「嘔吐物はない」 心肺停止に至るまで、特に処置はしていない」 というこ
とがわかり、排泄も確認されていません。
 このことから利佐子は、カプセルを服用してから心肺停止に至るまで、空腹状態
で、嘔吐物も排泄物もなく、下剤の投与などの治療行為も受けておらず、小腸から
の吸収を阻害する要因は一切ありません。よって利佐子の場合も、(第一の条件)
をそのまま適用することができ、グラフの描く血中濃度時間曲線は、上に膨らむ釣
鐘状の曲線になります。

 ところで、図1のグラフにおいて、原点0からの血中濃度の立ち上がりが、最初
はなだらかに立ち上がるのではないか、との疑問がわいて当然といえます。私はこ
のグラフを描くとき、このことをグラフの上で表現すべきか考えました。しかしこのこ
とを表現したグラフを描いても、図1とほとんど変わらない結果となることから、最初
の立ち上がりの状況をグラフに表現することは省略しました。
省略した理由を説明しますと、図1では原点0から吸収が開始されるように表現
してますが、実際の吸収開始はそれよりも早くなります。服用した三重のカプセル
が一三分後に胃または移行中に溶解すると、内容物はすべてが一気に溶出し、服
用して一三分後から、トリカブト毒の濃い濃度の胃液が小腸に移行します。すなわ
ち、実際には、カプセルを服用してから一三分後にはトリカブト毒の吸収が開始さ
れ、利佐子は空腹状態であるため、その七分後には多くのトリカブト毒が小腸に移
行し、カプセル服用から二〇分後の図1の原点0の時点では、小腸内でのトリカブ
ト毒の濃度はきわめて高くなり、血中濃度は急激に上昇していくことになります。
 この初期の血中濃度の動態を図1に表現するとすればカプセルを服用してから
一三分後に血中濃度はなだらかに立ち上がりはじめ、数分間、下に膨らむ曲線の
軌跡を描いて血中濃度は上昇し、原点0近辺で上に膨らむ曲線に変わり血中濃度
は急激に上昇していくことになります。この血中濃度の動態をグラフに描くと、原点
0では図1のグラフより血中濃度は高くなりますが、その後の血中濃度の動態は図
1のグラフとほとんど変わりません。

 また、服用から一三分後までにカプセルが胃から腸に移行し、小腸でカプセルが
溶解したとすると、その時点で一気に内容物が溶出し、小腸内でのトリカブト毒の
濃度は最高に達し、カプセル服用から一三分が経過した時点で血中濃度は急激
に上昇していくことになり、Y軸上の〔第五の条件〕 で示した三つの条件の血中濃
度は若干高くなります。図1のグラフを描いた目的は、〔第五の条件〕 の三つの時
点の血中濃度の上昇のあり方を判断することであり、その三つの時点での血中濃
度の値が高く表れることには、目的からして何らマイナスとはならず、図1のグラフ
のような〔第二の条件〕 による曲線の描き方をして一切矛盾はありません。
なお、〔二つの時間〕 を二〇分間としたことは、カプセルを服用してから吸収開
始までの考えうるあらゆる条件を包括して設定してあり、いま述べたように、空腹状
態の場合は、〔二つの時間〕 が二〇分間より短くなり、二〇分間を超えることはあ
りません。
以上が、グラフの立ち上がりの細かい表現を省略した理由です。
 
〔第三の条件〕 を説明します。
「発症から心肺停止までの経過時間は四三分間です」
 
37-1 引用 P59
 
利佐子を解剖した琉球大学医学部O助教授の尋問調書によると、利佐子が
死亡した翌日、八重山警察署から、何時何分にどういう症状というメモをもらい、
午後一時二七分、嘔吐がはじまったということで、その時間をいちおう発症と考えた、と証言している。
 
利佐子の発症時刻が午後一時二七分であることは、第四章の「発症時刻は午
後一時二七分」 で説明したように、確定できます。心肺停止の時刻は午後二時一
〇分頃であることは、判決も認定していて問題はありません。
発症時刻が午後一時二七分、心肺停止時刻が午後二時一〇分、その間の経過
時間は、四三分間です。図1のグラフでは、X線上に、「x」 として発症時刻を、「a」
として心肺停止時刻を、その間を「〔第3の条件〕、aマイナスx、四三分間」 と表示
してあります。
この午後一時二七分(x) の血中濃度を算出して、次の標題で、通常のトリカブ
ト中毒における発症時の血中濃度と、比較して盛ることになります。
なお発症時以外でも、通常のトリカブト中毒における血中濃度とひかくするため
に、Vホテルに到着したころ「x’」 と、チェックインを終了したころ、「x’’」 の血中濃
度を算出してみます。とくに、チェックインを終了するまで何ら自覚症状を訴えてい
ないという点で、この時点の血中濃度の数値を検討することは非常に大切です。
 
〔第4の条件〕を説明します。
「心肺停止時のトリカブト毒の血中濃度は、一二五..七ng/ml以上です。」
利佐子の血液から検出されたトリカブト毒が、血液の保管中に混入されたもので
はなく、利佐子の体内に存在していたものだと仮定した場合、心肺停止時のトリカブト毒の血中濃度は、
一二五..七ng/m以上が確定し、一二五..七ng/m未満になる可能性は一切ありません。
 
37-2 引用 P227-P228
 
東北大学M教授による鑑定書の利佐子の血液のトリカブト毒の鑑定結果は次
のとおりである。
アコニチン   二九.一ng/ml
メサコニチン  五一.〇ng/ml
ヒバコニチン  四五.六ng/ml
 合計    一二五.七ng/ml
東京大学N講師による鑑定書の利佐子の血液のフグ毒の鑑定結果は次のと
おりである
テトロトドキシン等二六..四ng/ml
 なおこの測定値には、テトロトドキシン以外にその変換物質である四-エビテトロ
トドキシン、テトロドン酸を含み、その比率は、三対四対一二六であり、ほとんどが
テトロドン酸に変換している。
 
利佐子の保存血液のアコニチン系アルカロイドの三毒素の含有量は、右鑑定結
果のとおりですが、これら三毒素の代謝物や分解物は、測定の対象になりません。
三毒素の含有量は、心肺停止後、約二二時間冷凍保存された遺体から採取した血液を、
約五年間冷凍保存して鑑定した結果ですが、心肺停止後に血中濃度がどのように変化するか
ということについて、二つの問題を検討する必要があります。一つは、心肺停止後に、血中濃度の
上昇があるかという問題、もう一つは、心肺停止後に、代謝や分解があるかという問題です。



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全文-38 (2013/03/01(金) 21:21:45)
2012.05.15

 全文-38

38-1 引用 P233
 
心停止後の血中濃度の動態について、次のような主旨の証言がある。
琉球大学のO助教授は、心室細動も心停止の一つであると証言する。
東北大学のS教授は、心停止後の血中濃度の上昇は非常に考えにくいと証言す
る。
東京理科大学のF教授は、死亡後、血中濃度は増えるわけがないと証言してる。
 
心肺停止後の血中濃度の上昇については、この証言から、その可能性はないと
言えます。よって、一二五.七ng/mlという血中濃度は、心肺停止時にはその濃度
まで上昇していたことになります。グラフで示すと、利佐子の場合、図5のようにな
ることはないと言えます。なお、図1から図5までのグラフは、曲線の形を明確にす
るため、C点の先を点線で描いていますが、実際には、曲線がC点から先、どのよ
うなカーブを描くか不明です。

 次に、心肺停止後に代謝や分解があるかという問題を検討します。東北大学M
教授は、利佐子から血液が採取された約一年後の第一次鑑定と、約五年後の第
二次鑑定とのあいだに、測定値にほとんど相違がないことから、血液を冷凍保存し
ておけば、その中に含まれるトリカブト毒は、ほとんど分解しないと証言しています
よって、代謝や分解があったとすると、心肺停止から血液が採取されるまでの、
遺体で保存されていた二二時間のあいだが問題となります。
東京理科大学F教授は、「死亡直後も酵素活性がまだ多少あるとすれば血中濃
度は減るだろう」 と証言し、血液鑑定をしたM教授は、「分析方法として、アコニチ
ンのほかにベンゾイルアコニン、あるいはアコニチン、そういった代謝物、あるいは
分解物を測れば、送料をもっと詳しく吟味できると思う」 と証言しています。これら
の証言から、心肺停止後に代謝や分解があり、二二時間のあいだにアコニチン系
三毒素が他の物質に若干形とも代謝および分解した可能性が指摘できます。よっ
て、心肺停止時のアコニチン系三毒素の総量が、一二五,七ng/mlより高かった
可能性があります。
以上から、〔第四の条件〕 は、「心肺停止時のトリカブト毒の血中濃度は一二五
.七ng/ml以上である」 と、「以上」 を加えることによって正確な表現となります。
 
両毒が利佐子の体内に存在していたと仮定したことで、大変不自然な問題が生
じて、混入説が浮かび上がります。
この問題は「第一の事項」 全般に関わります。先ほどの両毒の鑑定結果を見
ますとトリカブト毒は変換物質(代謝物および分解物) を含めず三毒素だけで
一二五.七ng/mlです。フグ毒は変換物質を含めて二六.四ng/mlです。そのうち
変換物質(4-エピテトロドキシンおよびテトロドン酸) が薬九七.七%です。M教
授は、トリカブト毒の変換物質であるベンゾイルアコニンおよびアコニンを測定すれ
ば総量をもっと詳しく吟味できると証言しています。
両毒が利佐子の体内に存在し、その結果、採取された血液から朗読が検出され
たとすると、両毒は同一の血液に含まれて数年間冷凍保存されていたのですから
、フグ毒の約九七.七%の変換物質は、遺体で二二時間冷蔵保存されているあい
だに、変換したのかという疑問も生じます。しかし、これが不自然なのです。先のF
教授の証言から考えると、若干の変換はあるのかと受け取れますが、約九七.七
%も変換するとは考えられません。フグ毒は冷凍保存でも、変換の可能性がある
のか考えてみましたが、一般に行われている血液検査のための冷凍保存では、血
液に含まれる、ほとんどの物質が、変換がなく成分が固定されると効いていますか
ら、フグ毒も、冷凍保存で、成分が変換することはなく、固定されると推定できます。

 では、ほかにどのようなことが考えられるか、検討してみます。
 トリカブト中毒について五つの症例を調べますと、事実上の心停止である心室細
動が起きない場合、発症してから五時間から一〇時間で回復しています。また、フ
グ中毒について、大阪大学のS教授は、呼吸停止から早い例では四時間、大体七
、八時間で、人工呼吸器で呼吸を確保すると回復すると証言しています。要するに
、回復するとは、有毒の物質が無毒の物質に変換するということです。両毒とも同
じような経過時間を辿って回復するところが似ています。両毒について、生体では、
このような現象が見られます。
このことから、利佐子が両毒を服用したと仮定して、発症から心肺停止までの四
三分間に、若干は変換したとしても、約九七.七%も変換したとは考えられません
。とすると、若干の変換は無視して、服用時、すでにすでに有毒のテトロトドキシン
は、約二,七%、〇,七ng/mlほどしか含まれていなかったと見るのが順当です。こ
の量は、利佐子の体重四七kgで換算すると、体内総毒量は約〇,〇三三mgとな
り、致死量の約六〇分の一です。((致死量は両毒とも約二mg)。
 
38-2 引用 P226-P227]
 
O教授は、両毒の投与比率を変えた場合の生存時間の延長について、次のよう
な主旨の証言をしている。
アコニチンを致死量の約五倍投与するのに対して、同時投与するテトロドトキシ
ンの投与量を、致死量の一倍、二倍、三倍、四倍と変えて実験してみると、生存時
間の延長倍率は一・二倍とか一・五倍とか二倍とかに変わってくる。致死量の約六
倍の投与量は、比較的顕著に延長する投与量を選んでいる。
 
この証言でわかるように、テトロトドキシンが致死量の約六〇分の一では、判決
が確認している、トリカブト三毒素の体内総毒量五,九mg、致死量の約三倍に比し
て、余りにも微量で、両毒の拮抗作用などは無きにひとしいものです。よって、利佐
子がトリカブト中毒死と仮定すると、発症時間が約二倍に延長し「一〇分が経過す
るか、血中濃度が約二〇ng/mlに上昇するまで」 という両毒の拮抗作用の影響が
なくなり、「カプセルが溶解してから、五分が経過するか、トリカブト毒の血中濃度が
一〇ng/mlに上昇するまでに発症する」 と確定できます。このことは、図一でもわ
かるように、両毒の拮抗作用があった場合に比較して、時間的にも大きな差になり
ます。

 このように、検察官が利佐子の中毒死の基盤として主張し、裁判所が認定した、
両毒の拮抗作用を、まったくの机上の空論にしてしまいます。
また、ありえないことですが、発症から心肺停止までの四三分間に、テトロトドキ
シンが約九七.七%変換したと推測しますと、生体では同じような回復までの時間
経過の現象が見られるトリカブト三毒素も、同程度の変換があると見なさなければ
なりません。仮に、アコニン等の変換物質を含めて鑑定し、三毒素以外に九七,七
%の変換物質が測定されたとすると、変換物質を含めたトリカブト毒の総量ng/ml、
利佐子の四七kgの体重で換算すると体内総毒量は一九六,九三mg、致死量の約
九八倍になります。判決が推認しているフグ毒の体内総毒量は一,二四mg、致死
量の約〇,六倍です。トリカブト毒の変換が、フグ毒の変換より少なかったとしても
、この両毒の致死量の一六〇倍ほどの大幅な差が、両毒の拮抗作用が効果を現
す五倍ほどに縮むとは考えられません。ありえないことを計算まで行ってみたのは
このことを示したかったからです。
やはりこの場合も、両毒の拮抗作用は、机上の空論に来してしまいます。
では何故テトロトドキシンが、約九七,七%もテトロドン酸等に変換したのか!
私は、両毒が、利佐子から採取された血液の保管中に混入されたと断定していま
すから、保管していた血液に混入される前に、その混入されるフグ毒が、何らかの
理由で変換してしまっていたと判断しています。


全文-39 (2013/03/04(月) 21:02:04)
2012.05.22

 全文-39 
 
テトロトドキシンが無毒のテトロドン酸に約九七,七%変換していますが(約三%
を占める4-エピテトロドトキシンは、証言がなく無毒か有毒かはわかりません) こ
こまで論じてきたその原因を、記述順に整理してみますと五項目になります。
    遺体で二二時間冷蔵保存されているあいだ
    長年にわたり冷凍保存されていたあいだ
    カプセルの服用時までにすでに変換していた
    発症から心肺停止までの四三分間のあいだ
    保存血液に混入されるまでに混入物がすでに変換していた
この五項目ですが、③④については、両毒の拮抗作用が、机上の空論であること
をすでに論じていますので説明は省略し、②①について詳しく説明した上で結論と
して、⑤が導かれることを明らかにします。
この説明の目的は、これらの問題が、かんぜんなアリバイの論拠に、大変寄与
することをお知らせしたいからです。

 利佐子から採取された血液は、公判開始の一九九一年一二月ころ、琉球大
学から、O教授の転勤先の日本大学に移され、冷凍保存されたと聞いていますが
、現在も保存されているなら、トリカブト毒およびフグ毒の成分を調べ直して、当時
の鑑定結果とほぼ等しければ、冷凍保存によるフグ毒の変換はないと証明できます。
トリカブト毒も調べる理由は、冷凍保存中に、何らかの理由で冷凍保存以外の環
境に、さらされた可能性がないか確認するためです。
 この両毒を調べ直した鑑定結果が、トリカブト毒の成分に変換はなく、フグ毒の
成分がテトロドン酸に100%変換している場合は、冷凍保存を行ってもフグ毒は変
換するという可能性を含むことになりますが、テトロトドキシンからテトロドン酸等へ
の変換は二.三%ですので、念のために鑑定で、冷凍保存中の変換であることを
確認する必要があります。また、両毒が共に変換している鑑定結果が出た場合と、
血液が保存されていない場合も、鑑定が必要です。
 鑑定の方法は、ヒトの保存血液にテトロトドキシンの純品を適量混入させて、混
入した時の変換も考慮してフグ毒の成分を測定した上で、一か月ほど冷凍保存し、
フグ毒の成分に変換がなければ、鑑定によって、「血液中に含まれるテトロトドキシ
ンは、冷凍保存することによって変換することはない」 ことが証明されます。

 次にF教授の、「死亡直後も酵素活性がまだ多少あるとすれば血中濃度は減る
だろう」 という証言を検討します。「酵素活性」 とは、生物体内に起こる化学反応
の触媒となる各種蛋白質を酵素と言い、その酵素が物質の化学分解や合成を起
こしやすい性質にあることが活性といいます。
 これは生体での酵素活性を念頭においた言葉で、遺体において、「未だ多少あ
るとすれば血中濃度は減るだろう」 とは、酵素活性が若干でも残っているとすれ
ば、遺体になってからの酵素活性によるテトロドトキシンからテトロドン酸等への変
換も、他の物質と同じように、微々たるものであろうということを示しています。
 この遺体における酵素活性による微々たる返還の問題と、血液中に含まれるフ
グ毒が冷凍保存によって変換しないことの証明を、合わせて立証すれば、有毒のト
リカブト三毒素の量一二五.七ng/mlに対して、有毒のテトロドトキシンの量が0.7
ng/mlと、大幅な差が、利佐子の心肺停止時に出ていることになります。
 利佐子がトリカブト中毒だと仮定してもその基盤である両毒の拮抗作用を成り立
たせている「有毒のトリカブト毒五に対して有毒のフグ毒六の比率」 という検察官
の主張と裁判官の認定の論拠が跡形もなく崩壊して、両毒の拮抗作用は適用でき
ず、結果としてトリカブト中毒ではないと完璧に論拠できますし約九七,七%テトロ
ドン酸に変換したフグ毒が、利佐子から採取された保管中の血液に、混入されたと
断定できます。さらに以上の結果から、同じようにトリカブト毒も、保管中に混入さ
れたと断言できます。

 この項で説明したことは、アリバイを完璧に証明する「第一の事項」を支える、重
要な要素になり得るものですし、「冷凍保存で血液中のテトロドトキシンが変換しな
い」 ことが立証されれば、この立証一つで完璧なアリバイとなる事項です。
 しかし、現在まで鑑定で立証されておらず、完璧な証明ができていないために、
この項以外で、この問題に関連するような説明を加えると、「第一の事項」 で意図
する筋道の、立証の積み重ねに、混乱を及ぼしかねないので、この項以外では説
明を避けています。

 体内総毒量を体重で換算する方法は理にかなっていると考えます。

 血中濃度に体重を乗じて体内総毒量を算出する方法は、第一審で疑問を呈す
る専門家もいましたが、目安として認めるという専門家が多数でした。
私は五年ほど前まで、科学月刊誌などを購読して読んでいましたが、近年、生
命体の研究は目覚ましい進歩を遂げ、複雑なシステムである生命体のメカニズム
の解明が進んでいます。そのなかで、ヒトの体の七〇%ほどを水分が占めているこ
とは、ほぼ定説となりました。また、血液の成分として、水分が約六〇%含まれてい
ると記憶していますが、その血液によって、酸素や栄養剤と共に、水分も全身に送
られて代謝を行います。
トリカブト毒およびフグ毒は水に馴染みますから、吸収された両毒は、血液中に含
まれる水分によって、全身の水分に代謝などにより均等に溶け込むと考えられま
す。両毒の血中濃度とは、血液の成分である約六〇%の水分に含まれる濃度で
す。血液の約六〇%の水分、全身の約七〇%の水分、血液と全身の、両毒を含む
水分の比率は幾らか違いますが、骨格などをそなえる全身の比重は、血液の比重
よりも若干多めとおもわれますので、その分を考慮し、目安として、血中濃度に体
重を乗じて体内総毒量を算出する方法は、理に適っていると考えます。

 両毒の拮抗作用について、血中濃度の動態という観点から説明します。

 心肺停止時のトリカブト毒の血中濃度は一二五.七ng/ml「以上」 となります
が、フグ毒はng/mlです。フグ毒は変換物質も含めて測定されていることから、
「以上」 を加える必要はなく、フグ毒がトリカブト毒の約五分の一から縮まることは
ありません。
O教授は、両毒をほぼ同量投与すると発症時間が約二倍延長するが、フグ毒の
量を減らすと、延長倍率も小さくなると証言しています。このことを血中濃度の動態
という観点から考察してみます。

全文-40 (2013/03/04(月) 21:25:51)
 2012.05.29

 全文-40

 まず、カプセルを服用してから、血中濃度が上昇するまでの過程を見て見ましょう。

 両毒入りのカプセルを服用した場合、カプセルに両毒が詰められていても、カプセ
ルの溶解時間は変わりません。カプセルが溶解し両毒が溶出してからの胃内容排
出時間は、両毒が混合したからといって遅れることはありません。トリカブト毒の小
腸からの吸収は溶解拡散によって行われ、「類似薬品が複数存在していても相互
に干渉がない」 ということから、両毒が小腸に存在していても、互いに干渉するこ
とはなく、吸収は濃度の濃淡に従って円滑に行われます。よって、両毒の血中濃度
の上昇は、グラフの曲線に表すと、両毒とも上に膨らむスムーズな曲線になります。
 要するに、カプセルを服用してから、血中濃度の上昇までは、両毒はなんら干渉
することはなく、拮抗作用の影響は、ここまでは一切ありません。
 なお、フグ毒は胃からも吸収するのではないかという疑問はありますが、証言が
なく確認できません。ただし、〔第二の条件〕 のところで説明したように、カプセル
は服用後一三分後には溶解しますので、その時、カプセルがまだ胃にあったとして
も、溶出した内容物はすぐに小腸へ移行をはじめますので、フグ毒の胃での吸収
は若干となります。図1で表現すると、一二分後にフグ毒の血中濃度はなだらかに
立ち上がり、原点近辺で急に上昇していくことのなります。このことから、フグ毒が
胃から吸収するとしても、両毒の拮抗作用には影響はありません。

 次に血液に取り入れられたトリカブト毒とフグ毒の薬理作用を及ぼす器官.組織
の受容体への結び付き方が問題となりますが、それについては証言があります。
トリカブトを原料として漢方製剤を製造販売している製薬会社がありますが、その
会社のM研究室長は、「受容体の結合部位は四つに分かれていて、フグ毒の結合
部位は受容体部位1番、トリカブト毒の結合部位は受容体部位2番と、両毒に結合
部位は相違する」 という主旨の証言をしています。このことから、薬理作用を及ぼ
す器官.組織の受容体への結び付き方についても両毒は互いに干渉することなく、
ここでも拮抗作用の影響は現れないことになります。

 では、心臓における両毒の拮抗作用が、どのような原理で現れるかを簡単に説
明します。正常な心臓の拍動は、洞結部で発生する電気的刺激が心室に伝わり、
細胞膜の膜電位が上昇し閾値に達すると、細胞膜のナトリウムチャンネルが開い
て、プラスのナトリウムイオンが細胞内に急激に流入し、膜電位がプラス側に変化
して、カルシウムイオンが細胞内に急激に流入してきて心室の収縮が行われます。
その後放電がありナトリウムイオンなども細胞外に流出して、細胞膜もマイナスの
膜電位に戻ります。これが一回の拍動です。血液にトリカブト毒とフグ毒が存在すると、
トリカアブと毒は心室の細胞膜にあるナトリウムチャンネルの受容体2番に結合し、
フグ毒はナトリウムチャンネルの受容体1番に結合しますが、トリカブト毒はナトリウム
チャンネルを開くことにより興奮状態にするのに対して、フグ毒はこれを閉じることにより
興奮を抑制するすることになります。トリカブト毒が受容体2番に、ある量だけ結合すると、
心室の興奮状態が異常となり、心電図異常が確認されます。その結果が死に至る閾値
に達すると心室細動が現れ中毒死となります。両毒の拮抗作用は、右の場合に、フグ毒
が受容体1番に、いかに結合しているかによって拮抗作用の強さが変わります。

それでは、両毒の拮抗作用は、どのような段階に至って現れるのかを検討します。
 
40-1 引用 P214 
 
薬物の薬理作用について、東北大学のM教授は次のような主旨の証言をして
いる。
一般的には、薬物作用を及ぼす器官、組織にはその薬物に対する受容体(リセ
プター)というものが存在し、薬物が血液で運ばれて体内をぐるぐると回り、その薬
物が、たとえば心臓のリセプターに一個付いただけでは発現しないが、閾値という
のがあり、閾値を超えた量、その薬物が薬理作用を及ぼす特定の器官、組織の
リセプターに付くと症状が現れてくる。その現れ方も薬物によっては急激に現れて
くるし、薬物によってはゆっくり現れるということがある。
薬理効果を示す濃度と、血中の濃度は、かならずしもパラレル(平行)ではない
。血中濃度が先行して、それから薬理作用を及ぼす器官、組織の濃度が高くなる
、それには相当時間のタイムラグがある。
 
この証言がヒントになりますが、両毒の受容体への結合が進んでいく段階で拮
抗作用が現れ、その拮抗作用の強さは、両毒の受容体(リセプター)への結合す
る量の差に影響されます。
 東北大学のO教授は、「受容体の結合部位の親和性という点から、トリカブト毒
がフグ毒より長く結合している」 という主旨のの証言をしています。この証言とM
教授の証言を合わせて考えると、次のようなことが言えます。ただし、何個という結
合個数は仮定の話で、証言などに根拠を求めることはできません。なお、体重五〇
kgのヒトの両毒の致死量が二mgと同量であることも、受容体部位への結合個数と
、心電図異常が現れる閾値(反応や変化を起こさせるのに必要な最小の値) との
関係を考える場合に参考になると思います。たとえばトリカブト中毒では、摂取から
五分後に四個のトリカブト毒が受容体部位2番に結合して心電図異常が現れます。
 ところが血中にフグ毒が存在する場合、受容体部位1番にフグ毒も結合し、トリカブト毒
の効力を打ち消します。しかし、受容体部位への親和性により、トリカブト毒がフグ毒より
長く結合しているということですから、トリカブト毒がフグ毒より受容体部位への結合が早く、
遅くまで結合しているのです。両毒の血中濃度が同じでも、受容体部位への結合はフグ毒
が少なくなります。

 たとえに戻りますと、トリカブト毒は五分後に四個、一〇分後に八個結合しますが、
フグ毒は五分後に二個、一〇分後に四個結合します。すると、トリカブト毒から
フグ毒を差し引くと、トリカブト毒は五分後に二個、一〇分後に四個となり、一〇分
後に心電図異常が現れることになります。この結果、トリカブト毒を単独で服用した
場合に比べて、両毒の血中濃度が同じでも、親和性の違いから、両毒の拮抗作用
によって心電図異常が現れる時間が二倍に延長するのです。
 致死に至る時間についても同じことが言えます。トリカブト中毒では摂取から五
〇分後に、三〇個のトリカブト毒が受容体2番に結合して死亡するとします。ところ
が血中にフグ毒が同濃度存在し、五〇分後に一五個のフグ毒が受容体部位1番
に結合し、トリカブト毒の効力を打ち消します。この状態では、トリカブト毒が受容体
2番に一五個結合したときの心電図異常は現れますが、死には至りません。その
後、摂取から一時間四〇分後に、トリカブト毒が受容体に六〇個、フグ毒が三〇個
結合して死に至ります。
 両毒の拮抗作用を、このように単純化して考察すると、以外に理解しやすいと思
います。マウスやラットで両毒の拮抗作用の実験をしたO教授の次の証言は、フグ
毒の血中濃度が低ければ、それだけ受容体部位1番への結合が少なくなることが
理解できます。
 
40-2 引用 P226-P227
 
O教授は、両毒の投与比率を変えた場合の生存時間の延長について、次のよ
うな主旨の証言をしている。
アコニチンを致死量の約五倍投与するのに対して、同時投与するテトロドトキシ
ンの投与量を、致死量の一倍、二倍、三倍、四倍と変えて実験してみると、生存
時間の延長倍率は一・二倍とか一・五倍とか二倍とかに変わってくる。致死量の
約六倍の投与量は、比較的顕著に延長する投与量を選んでいる。
 
40-3 引用 P229
 
両毒をヒトに同時に投与したときの症状の現れ方について、O教授は次のよう
な主旨の証言をする。
両毒の拮抗作用により、投与から発症、発症から致死まで、経過時間がそれ
ぞれ平均的に約二倍に延長する。
両毒の桔抗作用があっても、症状は、初期、中期、末期と、順次出現する。
両毒の拮抗作用があっても、しびれ感などの初期症状が出現しないわけでは
なく、遅れるだけである。
 
また、この証言も、受容体への親和性の関係で、結合がトリカブト毒よりフグ毒
が弱いとしても、時間の経過に伴う両毒の受容体への結合が、正比例するように
結合していくと考えられることから当然のことと理解できます。



全文-41 (2013/03/04(月) 21:42:52)
 2012.06.04

 全文-41
 
 ただし、この証言で発症について触れていますが、私は発症については納得し
ていません。ここまでの説明は、フグ毒が心臓については、全く無害であることを前
提にしています。実際そのとおりですから、心臓疾患の発症である心電図異常の
現れ方における両毒の拮抗作用を論じたのです。しかし、フグ中毒は、他の症状に
ついてはトリカブト中毒と共通です。しびれ感、悪心、嘔吐、意識混濁、呼吸麻痺な
どはトリカブト中毒と共通した症状です。これらの症状に、両毒の拮抗作用がある
とすれば、当然、心臓の拮抗作用とはメカニズムが違うはずです。たとえば、フグ
毒を致死量以上、トリカブト毒の数倍同時に投与すれば、今度はハイの受容体へ
のフグ毒の結合で、呼吸麻痺で死亡することになります。トリカブト毒も肺について
は有毒ですから、心臓のような拮抗作用は現れません。このことは、しびれ感や嘔
吐など他の症状も同じだと思います。

 私は第一審で、O教授にこれらをしつこく質問しましたが、期待できる解答は得ら
れませんでした。それ以来、このことにこだわると話が進まなくなるので、やむを得
ず、「発症」 を「最初に自覚症状を訴えたとき」と厳密に規定して、O教授の証言を
取り入れ、発症についても両毒の拮抗作用について論じることにしました。
 マウスやラットを使用したO教授の実験では、両毒の投与比率をいろいろに変え
て投与し、フグ毒をトリカブト毒より少し多く投与して、生存時間が最大で約二倍に
延長したということに注目しなければなりません。両毒の受容体への結合という点
を考慮すれば、トリカブト毒とフグ毒の拮抗作用においては、両毒の投与比率をい
かに調整しても、親和性の問題から、生存時間が二倍を超えて延長することはあり
えませんし、同じ理由から、発症時間が二倍を超えて延長するということもありえな
いと言えます。このことは、〔第五の条件〕 を基にして、利佐子の死因を検討する
上で、非常に重要なことです。

 血中濃度の動態からみた両毒の拮抗作用の現実を考察した結果として、〔二つ
の時間〕 および〔第一の条件〕 から〔第五の条件〕 まで、両毒の拮抗作用が与
える影響について確認しておきます。
 両毒が共に存在してもカプセルの溶解時間や胃内容排出時間に変化はなく、両
毒の拮抗作用は〔二つの時間〕 に影響は与えません。グラフの描く曲線については、
両毒がそれぞれの受容体に結合するまでの過程では、両毒の拮抗作用の影響が現
れないことから、両毒を同時に摂取しても血中濃度の上昇のあり方には相互に影響を
及ぼすことはなく、〔第一の条件〕 第二の条件〕 で描く図1のグラフのトリカブト毒の
血中濃度時間曲線に、一切変化は及ぼさないということになります。また、発症の時刻
および心肺停止の時刻は事実として確定していますから、〔第二の条件〕 に両毒の
拮抗作用は影響を及ぼしません。
 なお、図1に、フグ毒の血中濃度時間曲線を描くとすれば、トリカブト毒の血中濃度
時間曲線の五分の一ほど下方に、上に膨らむ曲線として描くことができます。

〔第四の条件〕 は心肺停止時のトリカブト毒の血中濃度ですが、前項で説明し
たように、一二五.七ng/mlの測定値に「以上」 を付ける必要があります。フグ毒
は二六.四ng/mlと確定することができます。この26.4ng/mlは、心肺停止以前
に、最高血中濃度として現れたのではないかと、誤解する方も居るかもしれません
が、フグ毒は変換物質も含めて鑑定されていることから、心肺停止時の測定値二
六.四ng/ml「以上」 になることはありないのです。よって、フグ毒の血中濃度時間
曲線は、トリカブト毒の五分の一ほど下方になります。このフグ毒の血中濃度が、
五分の一程度で推移するということが問題となります。前項の例でいえば、トリカブト毒
の受容体への結合が五分後に四個なのに対して、フグ毒は血中濃度が低いため五分後
に一個結合するかしないか程度となり、あと1、2分も経過すると発症(実際は心電図異常
ですが、ここからは発症と表記します) してしまうことになります。このように、発症時間
の延長倍率は、一.二倍程度であり、このことが次の「血中濃度が事実を語る」 で説明する
〔第五の条件〕 に影響することになります。
 結論として、両毒の拮抗作用は,〔二つの時間〕 および〔第一の条件〕 から〔第
四の条件〕 までは一切影響を与えず、また〔第五の条件〕 として示している、、経
過時間に伴う血中濃度の値にも影響を及ぼさないことから、図1のグラフを検討す
る場合、両毒の拮抗作用については考慮する必要はありません。
 
 小麦粉を混合することによって、〔二つの時間〕 および〔第一の条件から〕 〔第四の条件〕
までに、なにか影響を与えるかということについて説明します。

 〔二つの時間〕については、小麦粉と混合してカプセルに詰めたからといってカプ
セルの熔解時間は変わりませんし、小麦粉は胃液にトリカブト毒と共に溶けるので、
胃内容排出時間は変わりません。
 〔第一の条件〕 〔第二の条件〕 は、図1のグラフの描く曲線の問題で、小麦粉
を混合したからといって上に膨らむ曲線が下に膨らむ曲線に変わることはありませ
んし、〔第三の条件〕 および〔第四の条件〕 は実際に鑑定している条件ですから、
小麦粉を混合しても変化することはありません。
 また〔第五の条件〕 は、両毒の拮抗作用のように、同時に摂取すると発症時の
血中濃度を押し上げる効果があるということですが、小麦粉と、トリカブト毒やフグ
毒とのあいだには、拮抗作用は一切ないことから、小麦粉を両毒と一緒に摂取して
も発症時の血中濃度を押し上げる効果はなく、〔第五の条件〕 は変わりません。
 では、小麦粉と混合すると、なにが変わるのでしょうか。共同鑑定書のように、水
飴状物質と小麦粉を一対一で混合した場合は、粉末状になるだけで、ほかはなん
ら変わりません。東京理科大学F教授の「小麦粉混合」 の鑑定の場合は、第四章
八「小麦粉の混合? それは影響ない」 で説明したように、テオフィリン対小麦粉
を一対一で混合すれば溶出性は悪くなるようですが、利佐子の場合摂取量は確定
できず不明であり、溶出性が悪くなる分、摂取量を増やせばいいだけで、小麦粉を
混合しても、図1の各条件には一切影響を与えず、図1はなんら変化することはあ
りません。

以上で、〔二つの時間〕 および〔第一の条件〕 から〔第四の条件〕 までの説明
を終わりますが、ここで経過時間に伴う血中濃度の値を計算する方法を示しておき
ます。




グラフ画像 (2013/03/05(火) 08:22:06)
グラフ画像

図1
グラフ-1

図2~5
グラフ-2

 図1+図2~5
グラフ-1.2 
料理表
料理表-2   

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全文-42 (2013/03/12(火) 00:00:41)
2012.06.06

 全文-42
 
 利佐子がトリカブト中毒で死亡したと仮定すると、〔二つの時間〕 および〔第一の
条件〕 から〔第四の条件〕 までの五つの条件で、利佐子がカプセルを服用してか
ら心肺停止に至るまでの、血中濃度時間曲線の動態が確定します。これ以外に、
条件は一切ありません。
次の「血中濃度が事実を語る」 で明らかにする〔第五の条件〕 は、発症時の血
中濃度がどの程度かということを、五つの症例を検討することによって導き出す条
件ですが、この〔第五の条件〕 と比較するために、図1の〔第五の条件〕 である利
佐子の行動から特徴的な時点を取り上げて、その時刻の血中濃度の計算方法を
示します。
 
42-1 引用 P307-P308
 
図1のグラフの「第五の条件」の血中濃度「y」の算出方法
「y」を、グラフの曲線上で算出できるとよいが、曲線がどの程度上に膨らむか
定かでなく、また曲線から直接計算式を立てる方法を私は知らないので、簡便な
方法として、曲線を暫定的に直線に置き換えて、図ーのようにc点から原点Oに直
線を引いて、その直線上で経過時聞に対する血中濃度を計算し、その結果を曲
線に還元する方法を採る。
計算対象は直線だから、原点Oからc点までのこの直線上のどの地点を取って
も、それに対応するX軸とY軸のそれぞれの地点は正比例する。吸収開始から心
肺停止までの時間を「a」、心肺停止時の血中濃度を「b」とし、吸収開始からの経
過時間を「x」、経過時間に対する血中濃度を「y」とした場合、図1に示すように次
の式が成り立つ。
この式に、吸収開始から心肺停止までの時間「aに六七分間」、心肺停止時の
血中濃度「bに一二五・七ng/ml」、吸収開始から発症までの経過時間「xに二四分
間」 を代入すると、直線上での発症時の血中濃度「y」は「四五・Ong/ml 」と求め
られる。
この値を曲線上に還元する必要があるが、グラフを見ると明らかなように、曲線
上ではさらに高い血中濃度を示している。よって、「以上」とすることによって上に
膨らむ曲線である場合は、すべてを満たすことになる。図1の表の最下段に記した
ように、発症時の血中濃度は「四五・Ong/ml以上」となる。
図2ないし図4のグラフを見るとわかるが、心肺停止時の血中濃度が「第四の条
件」で説明したように二一五・七ng/ml以上であるなら、「第一の条件」および「第
二の条件」で明らかにしている上に膨らむ曲線である場合、曲線が図2ないし図4
のような軌跡を描いても、発症時の血中濃度はさらに高くなるだけだ。なお、図5
のグラフになることは、利佐子の場合は可能性がないことは「第四の条件」で説明
したとおりである。
以上の計算方法で、図1のX軸上の吸収開始からの経過時間に対応する、Y軸
上のどの地点での血中濃度でも算出できる。
また、Y軸上で血中濃度を二Ong/mlならそのように、ある値を「y」として決める
と、それに対応する吸収開始からの経過時聞が算出でき、「二つの時間」を加味
して、利佐子のカプセル服用の時刻が確定する。
 
この計算方法によって、図1に示すように、発症時の利佐子の血中濃度は四五
.0ng/ml以上となり、それ以前のVホテルに到着したころは二二.五ng/ml以上、チ
ェックインを終了したころは三七.五ng/ml以上に上昇しています。さて、この血中
濃度を、五つの症例から導くことができる、トリカブト中毒の発症時の血中濃度と比
較すると、どのようなことが明白になるでしょうか。

 血中濃度が事実を語る

 五つの条件から導き出した〔第五の条件〕 の説明からはじめます。
 〔第五の条件〕
 「トリカブト毒とフグ毒の拮抗作用がない場合は、利佐子はカプセルが溶解して
から五分が経過するか、または五分が経過してからトリカブト毒の血中濃度が一〇
ng/mlに上昇するまでには発症していると確定できるが、トリカブト毒とフグ毒の拮
抗作用が最大限にある場合は、利佐子はカプセルが溶解してから一〇分が経過
するかまたは一〇分が経過してからトリカブト毒の血中濃度が二〇ng/mに上昇す
るまでには発症していると確定できる。」
 共同鑑定書の五つの症例と両毒の拮抗作用についての鑑定結果を検討すると
、〔第五の条件〕 のように、トリカブト中毒の発症に至る最短時間と、発症時の血
中濃度が推定できます。
 トリカブト中毒の発症に至る最短時間には、「タイムラグ」 が絡むことは、先に説
明しましたが、再度確認しますと、心室の細胞膜にあるナトリウムチャンネルの受
容体2番に、ある量だけ結合すると、心電図異常が確認され、その結合が進むと
心室細動が現れ死に至ります。この結合が閾値(反応や変化を起こさせるに必要
な最小の値) に達するまでの時間と、血中濃度の上昇とは、必ずしも一致するわ
けではありません。この差がタイムラグと呼ばれるもので、「第五の条件」 を、発症
に至る最短時間と、発症時の血中濃度に分けて検討する一つの要因です。

 これに関するM教授の証言を再確認しておきます。
 
42-2 引用 P214
 
薬物の薬理作用について、東北大学のM教授は次のような主旨の証言をしてい
る。
一般的には、薬物作用を及ぼす器官、組織にはその薬物に対する受容体(リセ
プター) というものが存在し、薬物が血液で運ばれて体内をぐるぐると回り、その
薬物が、たとえば心臓のリセプターに一個付いただけでは発現しないが、閾値と
いうのがあり、閾値を超えた量、その薬物が薬理作用を及ぼす特定の器官、組織
のリセプターに付くと症状が現れてくる。その現れ方も薬物によっては急激に現れ
てくるし、薬物によってはゆっくり現れるということがある。
薬理効果を示す濃度と、血中の濃度は、かならずしもパラレル(平行)ではな
い。血中濃度が先行して、それから薬理作用を及ぼす器官、組織の濃度が高くな
る。それには相当時間のタイムラグがある。

 五つの症例のうち血中濃度の測定結果が明らかにされているのは、症例2の男
性、症例3の男性、症例4の女性、症例5の八名の一一名ですが、その一一名の
血中濃度の測定を行ったM教授や共同鑑定人のS教授の証言の主旨と、共同鑑
定書に添付されている参考資料から関係事項を次の示します。
 
42-3 引用 P309-P311
 
共同鑑定書の五つの症例一一名のトリカブト毒の血中濃度の測定結果
[症例2の男性]
「死亡後司法解剖が行われ、胃内容物、血葉、尿中より致死量をこえるアコニ
チン系アルカロイドが検出された」 と、参考資料2に記載されている。
「死亡後の血液の血中濃度は、ジエサコニチンが四三三ng/ml 、アコニチンが五
ng/ml、合わせて四三八時/耐と記憶している」と、M教授は証言している。
[症例3の男性]
「服用二時間後の午前九時に採血して、分離した血清の血中濃度は、六・三
五八ng/ml」と、参考資料3に記載されている。
「症例3の男性の場合は、採血後も血中濃度の上昇は続いていたと考えられ
る」 と、S教授は証言している。
[症例4の女性]
「血液中のアコニチン濃度の変化を、血液吸着療法中を含め服用三五日後ま
で測定した」と、参考資料4に記載されている。
「血中濃度は、血中でいろいろと動いているが、三Oから四Ong/mlぐらいだ」
「三Oから四Ong/mlぐらいで、もしかしたら救急救命処置を取らなければあるい
は亡くなっていたかもしれないと思われる。これは想像だが、その辺の値か一OO
ng/mlあたりが、将来、体重を掛けるということではなく、その量で致死量というこ
とが採用されると思う」と、M教授は証言している。
[症例5の八名]
「一一名とも受診時は心電図上正常波形であったが、その後心室性期外収縮
が出現し心室性頻拍へ移行した。胃洗浄やリドカインの投与などで、摂取五時
間後心電図波形の正常化及び自覚症状の軽快をみた。残り六名のうち三名は
入院、三名は外来で下剤の投与を受け症状の軽快をみた」 「全員の血清を受
診時に採取し、現在血中アコニチン濃度を分析中である」 と、参考資料5に記
載されている。
「症例5では、二人の人が中毒して入院したわけで、詳しいことは忘れたが、そ
の日か翌日の血液の濃度を調べると、トータルで一ng/ml程度であり、その程度
で中毒している」 と、M教授は証言している。

 発症前の血中濃度を探る手がかりはこれ以外に裁判では示されていませんが、
一一名もの血中濃度の実例があるなら充分だと思います。発症時の血中濃度を
検討する場合、個人差が問題となります。
そこでよく考えてみると、血中濃度で発症を捉えるなら、この血中濃度の値に個人
差が含まれることになり、大変便利です。たとえば、発症時間の個人差を問題にす
る場合には空腹状態か満腹状態かで大幅な差が出ます。しかし、発症時の血中
濃度という表現なら、四ng/mlで発症しても、六ng/mlで発症しても、空腹か満腹か
ということは血中濃度の上昇の動態に含まれており、考慮する必要はありません。
 そして、その発症時の血中濃度の個人差を問題にする場合、次のような本来の
体質的な個人差に分類できます。トリカブト毒の血中濃度と薬理作用を及ぼす器
官・組織の受容体への結び付きの差としてのタイムラグや、それにかかわる発症に
至る閾値などを考慮したとき、ある人は二ng/mlで発症し、別の人は二〇ng/mlで
発症するというほどの個人差があるなら、よほど多くの人を対象にして発症時の血
中濃度を検討しなければなりませんが、一〇人ほどの人数を検討した結果、発症
時の血中濃度が全員一〇ng/mlまでに収まるなら、この一〇ng/mlを発症時の血
中濃度の上限と定めても、一切齟齬を来しません。五つの症例の一一名の測定結
果は、まさにこのような状況を表しており、一一名の血中濃度をもって、個人差を考
慮に入れての発症時の血中濃度の範囲を確定させ、一〇ng/mlをその上限と決め
ても正当と言えます。この点を一一名について説明いたします。
 
 なお。血中濃度の上昇とともに受容体への結合が多くなり,ある閾値を超えたと
き発症するわけですから、血中濃度が先行して、それから各器官や組織の濃度が
高くなるとしても、閾値を超えて発症した時点での血中濃度が、発症時の血中濃度
であると確定してなんら矛盾は生じません。閾値の個人差は、発症時の血中濃度
の個人差として現れてきます。

 それでは一一名について、「五つの症例」 の症状のあり方を参考にしながら、
血中濃度の測定結果を検討しますが、「症例2の男性」 は測定された血中濃度が
他の症例とは比較にならないほど多量で、タイムラグの影響が関係してくるので最後
に検討することにしています。
 
42-4 引用 P180-P182
トリカブト中毒の五つの症例
 
[症例1]
 平成元年四月、男性医師(五十二歳) が採取した山菜(トリカブトをニリン草と
誤認) をおひたしにして医師は小皿に一皿、その長男(十七歳 )は二つまみほど
食した(同午後六時五分)。医師は食直後から舌のしびれを感じていたが、同六時
四十分から外出し同七時五分帰宅直後長男が口、手、足の痺れを訴えたのでト
リカブト中毒と直感し、強制嘔吐、医薬品の投与、人工透析等の処置を行った。
医師は同午後九時から不整脈が現われ、同午後十時には血圧が七0mmHgまで
低下、冷汗、皮膚温低下、悪心、嘔吐が続いた。同午後十時から十一時頃が最
も症状が強かった。また、痺れは翌朝四時前まで続いた。一方、長男は同午後七
時すぎには不整脈が出現したが同午後十一時頃には回復した。痺れ感も翌朝二
時には消失した。記録された心電図によると長男は医師よりも危険な不整脈を伴
っていた。医師は摂取量が多く症状は末期に近かったにも拘わらず、心電図所見
で軽症であったのは、医師が高血圧のために服用している持続型の抗カルシウ
ム剤アダラーL(一日三0mgを二回服用) のためではないかと推察している。
 
[症例2]
 平成元年八月、男性(四十四歳) は郵送されてきたクズモチを十切れ、その娘
(四歳) は一切れ半食した。男性は五分後に口及び体のしびれを感じ、摂取二十
分後に来院した。来院時不穏状態で発汗嘔吐があり、足の麻療があった。鎮静
目的で医薬品を投与したところ、呼吸抑制がみられたため人工呼吸を開始した。
この前後より大腿動脈の拍動触知不能となり、致死的不整脈を発症していたの
で、心肺蘇生術及び各種の医薬品による治療を行ったが、心停止となり、来院後
四時間で死亡した。
その娘は、摂取五分後に口、手足のしびれを訴え、やがて歩行困難となり摂取
二十分後に来院した。受診時不整脈は認められなかったが、その五分後に悪心
嘔吐及び不整脈が出現した。直ちに、胃洗浄や医薬品の投与等の処置を行っ
た。その後、血圧低下、痙攣発作及び呼吸停止を起こしたため人工呼吸を施行し
たところすぐに回復した。その後医薬品の投与等の処置を行い、来院後九時間で
不整脈は回復し、全身状態も安定した。
 
〔症例3]
 平成四年四月、午前七時、男性(四十五歳)がトリカブトの根と茎を細切りし浸し
ておいた水溶液を自殺目的で服用し、同午前七時三十分に来院した。来院時の
主訴は口唇周囲のしびれ感であった。同午前七時四十五分に胃洗浄や下剤投
与等の処置を行ったが、同午前八時二十分には不整脈が現われ、呼吸停止にい
たった。人工呼吸及び医薬品投与等の処置を行った結果、自発呼吸が戻り同午
前八時四十七分には不整脈は消失した。同午前九時から同日夕刻まではわず
かに心室性期外収縮を認めるのみであった。
 
[症例4]
 平成四年二月、昼、女性(六十一歳)が自殺目的でトリカブトの根を食し、同十
二時三十五分救急外来を受診した。受診時、譜妄状態で血圧低下(七0mmHg)、
瞳孔散大、流誕、下痢、嘔吐が認められ、同十二時五十五分、突然、致死的不
整脈を発症した。直ちに、心肺蘇生術及び各種の不整脈剤による治療を行った
が、不整脈、心停止を頻回繰り返した。そこで心肺蘇生術施行下に血液吸着療
法を行った結果、開始後約二十分頃より不整脈や心停止等の頻度が減少し、硫
酸マグネシウムによる不整脈のコントロールが可能となった。翌朝には致死的不
整脈は消失したが、心室性期外収縮は翌朝以降も持続した。
 
[症例5〕
 平成五年四月、四家族八名が付近の山より採取した山菜(トリカブトをモミジガ
サと誤認) をおひたしにして食した。摂取約二十分後全員に舌先端部にしびれを
感じ、その後しびれ感は体幹及び上肢に拡がった。八名中二名は摂取三十分な
いし二時間後に前胸部不快感、嘔吐及び呼吸困難を訴え病院で受診した。受診
時は不整脈はなかったが、その後不整脈が現われた。胃洗浄などの処置により、
摂取五時間後不整脈は回復し自覚症状も軽快した。
42-5 引用 P309-P311
 
共同鑑定書の五つの症例一一名のトリカブト毒の血中濃度の測定結果
[症例2の男性]
 「死亡後司法解剖が行われ、胃内容物、血葉、尿中より致死量をこえるアコニ
チン系アルカロイドが検出された」と、参考資料2に記載されている。
「死亡後の血液の血中濃度は、ジェサコニチンが四三三ng/ml 、アコニチンが
五ng/ml、合わせて四三八ng/mlと記憶している」と、M教授は証言している。
[症例3の男性]
 「服用二時間後の午前九時に採血して、分離した血清の血中濃度は、六・三五
八ng/ml」と、参考資料3に記載されている。
「症例3の男性の場合は、採血後も血中濃度の上昇は続いていたと考えられる」
と、S教授は証言している。
[症例4の女性]
 「血液中のアコニチン濃度の変化を、血液吸着療法中を含め服用三五日後ま
で測定した」と、参考資料4に記載されている。
「血中濃度は、血中でいろいろと動いているが、三Oから四Ong/mlぐらいだ」
「三Oから四Ong/mlぐらいで、もしかしたら救急救命処置を取らなければあるい
は亡くなっていたかもしれないと思われる。これは想像だが、その辺の値から一
OOng/mlあたりが、将来、体重を掛けるということではなく、その量で致死量という
ことが採用されると思う」 と、M教授は証言している。
[症例5の八名]
 「二名とも受診時は心電図上正常波形であったが、その後心室性期外収縮が
出現し心室性頻拍へ移行した。胃洗浄やリドカインの投与などで、摂取五時間後
心電図波形の正常化及び自覚症の軽快をみた。残り六名のうち三名は入院、三名
は外来で下剤の投与を受け症状の軽快をみた」 「全員の血清を受診時に採取し、
現在血中アコニチン濃度を分析中である」と、参考資料5に記載されている。
「症例5では、二人の人が中毒して入院したわけで、詳しいことは忘れたが、その
日か翌日の血液の濃度を調べると、トータルで一ng/ml程度であり、その程度で
中毒している」と、M教授は証言している。
 
 「症例3の男性」は、摂取二時間後の血中濃度が血清で六.四ng/mlです。血清
と血液の関係については、私が鑑定書などから、血清は血液の六〇%程度になる
と計算して法廷でM教授に質問しましたが、
 M教授は、「人によって大きな差はないと思う」 
と答えていることから、六〇%で概算すると、この男性の血液に換算した血中濃度
は約四ng/mlとなります。この男性の発症が、どの時点かということは明確ではありません。
しかし、採血の四〇分前、摂取から一時間二〇分後に心室性頻拍が現れ、その不整脈が三〇
分続き、その一〇分後に採血しています。



全文-43 (2013/03/12(火) 00:54:49)
2012.06.11

 全文-43
 
 この採血の時点の血中濃度を参考として、トリカブト毒の血中濃度時間曲線の
動態を、東北大学二教授の証言を考慮しながら、実際を明らかにするために、図3
を利用して検討します。
 
43-1 引用 P294
 
トリカブト毒のグラフに描かれる血中濃度時間曲線について、血中濃度を縦軸
(Y軸)、時間の経過を横軸(X軸)で表示した場合、O教授は、「ある程度まで急に上
昇し、ある程度からだんだん下がっていくような、上に膨らみを持つ曲線になる」と
証言し、S教授は、「西洋の釣鐘のような形で、左右対称ではなくて、吸収のほう
が非常に上がっていき、ある時間はゼロで、それからなだらかに下がっていく」 と
証言している。

グラフ 
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 図3の0点を服用した午前七時、a点を午前九時、最高血中濃度(曲線の山の
頂上) を不整脈が現れた午前八時二〇分、b点を血中濃度四ng/mlとして検討す
ると、最高血中濃度が五ng/ml(bの四分の一をbに重ねる) を越えた場合、最高
血中濃度から下降する曲線は、上昇の時の曲線と同じように急で、なだらかには
下がりません。
 
43-2 引用 P287

 
よって、この男性の血中濃度は五ng/ml以上には上昇しておらず、当然、発症
時の血中濃度は五ng/ml以下ということになります。
なおS教授は、「採決後も血中濃度の上昇は続いていたと考えられる」 と証言して
いますが、それが正しいとすれば採血以前の血中濃度は四ng/ml以下ということ
になり、発症時の血中濃度はさらに低くなります。どちらにしても、この男性の場合
、一〇ng/mlまで、血中濃度が到達しているということはありえません。

 「症例4の女性」 は、発症の時刻が明らかにされていません。M教授はこの女
性の血中濃度を「三十から四十ng/mlぐらいだった」 と証言しています。これは血
液吸着療法中に採血した血液の血中濃度と解されますが、それまでに不整脈や
心肺停止を数回繰り返して、血液吸着療法開始後二〇分ころより回復に向かうこ
とから、血液吸着療法を行うまでは、血中濃度は上昇していたと考えられます。そ
うすると、血液吸着療法中の血中濃度が三十ないし四十ng/mlであるので、摂取
五分後の血中濃度は三十ng/ml近辺まで上昇していたと推定できます。それで
は、摂取五分後の血中濃度を三十ng/mlと推定して発症時の血中濃度を検討して
みます。この女性の場合は、図1を利用して、図1のa点から五五分後の午前一二
時五五分、b点の血中濃度を三十ng/mlと設定します。
 
43-3 引用 P286

 吸収開始から発症までの経過時間xが問題となります。この女性は、摂取から
三五分後には末期の症状が出現していますが、この時間の経過に伴う症状の出
現のあり方は、症例2の男性とその娘に極めて似ています。このことから、この女
性も摂取から五分程度で発症していると推定しても、それほど相違しないと思いま
す。その場合の血中濃度を計算してみます。計算式 ay=bx のaに五五分、bに三
〇ng/ml、xに五分を代入して計算すると、yは約三ng/mlとなり、これを曲線に還
元すると四ng/mlくらいとなります。ただしこの場合、胃内容排出時間は瞬間的と
仮定してxは五分としていますが、胃内容排出時間が二分かかったとするとxは三
分となり、yは約二ng/mlとなります。
また、胃内容排出時間が瞬間的と仮定して、この女性の摂取から発症までの経
過時間が症例2の二名の二倍もかかり、xが一〇分になったとしても、発症時の血
中濃度yは八ng/mlとなります。発症時間が一〇分を越えることは、この女性の症
状の出現のあり方を症例2の二名と比較すれば考えられることではありません。よ
って、この女性は血中濃度が一〇ng/mlに上昇する以前に発症していることは確
実に言えることです。

 「症例5の八名」 は発症後に受診し、その受診前に全員から採血した血液のト
リカブト毒の血中濃度が測定されています。
この測定結果についてのM教授の証言は、もうひとつはっきりしません。「その
日か翌日の血液の濃度を調べると」 との証言は、共同鑑定書参考資料5に、「受
診時に採取」 と記載されていますから、「その日」 であることは間違いありません
また、「トータルで一ng/ml程度あり」 との証言は、もっとも症状の重かった二名
のことなのか、八名全員のことなのか、はっきりしませんが、「トータルで」 と言って
いることから八名全員と理解するのが順当で、八名全員の血中濃度が一ng/ml程
度と判断して間違いありません。
 八名全員、受診時に採血したと参考資料に5に記載されていますが、その受診
時について、二名以外は摂取からの経過時間は「症例5」 にも記載されておらず
発症時の血中濃度を算出する手がかりはありませんが、採血の時に血中濃度が
上昇中であればもちろんのこと、下降中であっても、症例3の男性のところで説明し
たように、S教授の証言から血中濃度が急激に下降しているとは考えられず、発症
時の血中濃度は八名全員が一ng/ml程度、またはそれ以下と推定して矛盾はあり
ません。まして、発症時の血中濃度が五ng/mlまで上昇していた、などということは
ありえません。
 この症例5について注目すべきことは、八名全員が血中濃度一ng/ml程度で発
症していることです。トリカブト中毒においては、この程度の低濃度で発症すること
を如実に示しており、本来の体質的な個人差はあまりないことが明らかだと言えま
す。また、摂取から発症までの経過時間の相違は、主に、抽出エキスなのか、山菜
と誤認した葉の摂取なのか、などの摂取の形態や、空腹か満腹かという胃の状態
に起因することを明確に示しています。
 
ここで、「症例1の医師とその長男」 について説明しておきます。

 検察官は第二十八回公判におけるM教授との質疑応答で、「死戦期の不整脈
(心室性頻拍) が出現した長男より、何倍か多く摂取した医師は、致死量を超え
た服毒をしていたと考えられるのに冷汗や悪心、嘔吐の症状は摂取から四時間後
に出現している。」 と指摘した上で、「五つの症例を検討すると、非常に個人差が
大きい」 と結論づけ、M教授も同意します。この結論などは、本来の体質的な個
人差と、摂取の形態や胃の状態を、区分して検討することを怠り、この二つの要因
をごちゃまぜにし検討した結果といえます。
 第一、   医師が致死量を超えて服毒したという指摘が間違っています。長男に現
れた不整脈は心室性頻拍で、症例5の二名を検討すればわかるように、一ng/ml
程度の血中濃度で心室性頻拍は出現するのです。それに、症例5の二名は、嘔吐
や呼吸困難といった中期の症状が現れているのに、共同鑑定書参考資料1による
と、この長男には中期の症状は現れていません。症状は症例5の二名より軽いの
です。不整脈の回復も、この長男は症例5の二名とほぼ同じです。この長男の血
中濃度が、症例5の二名と同じ一ng/ml程度と推定して矛盾はありません。

 なお、症例5のトリカブト中毒の発症は、私が逮捕された約二年後の一九九三
年四月です。「症例5の二名の血中濃度は、一ng/ml程度であり、その程度で中毒
している」 とのM教授の証言は、一九


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この回で、神谷 力氏の再審請求の為の手記、
【事実の証明-1~6】及び【全文-1~43】を終わります。 
神谷氏によると主張の要旨は、【全文-38】 
を見ればわかりやすいとのことです。


(この回の文末が途切れてるのは、病に倒れた為)

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