事実の証明

心残りのまま永眠した 神谷 力 氏の手記。 トリカブト事件を冤罪と断定し、 判決の矛盾を鋭く指摘する。
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全文-34 (2013/02/27(水) 19:55:30)
2012.04.18

 全文-34

 第五章 事実を描くとアリバイが成立する

 私は、無罪を勝ち取るだけでは満足できません。無実を完璧に証明することが、
私が辿り着かなければならない目的地なのです。
ここまで適時にお話ししてきたアリバイに匹敵する「三つの事項」 と無実を証
明する「一つの事柄」 とは、その目的地を目指すための立証なのです。利佐子
の血中濃度の動態を証拠とする「第一の事項」 、利佐子が服用したとされる毒
量が、カプセルに詰め切れないことを証拠とする「第二の事項」 、利佐子の保存
血液と密閉ガラス瓶のトリカブト毒の成分比率が、大幅に相違することを証拠とす
る「第三の事項」 、この「三つの事項」 を立証できて無罪を勝ち取ったしても、無
実を証明したことにはならないのです。なつ江の死因がトリカブト中毒でもフグ中
毒でもないことを証明する「一つの事柄」 が立証できて、はじめて私の無実は完
璧に証明されるのです。

 この事件は、利佐子が病死か中毒死かを争うのであって、私が殺害しなけれ
ば、ほかに真犯人が居るという事件ではありません。考え方によっては簡潔な事
件と言えます。利佐子の保存血液から両毒が検出されたことによって、状況証拠
の多くが私を不利な方向へと導きました。そのことで、「疑わしきは被告人の利益
に」 という刑事裁判の原則に依拠することはできず、アリバイに匹敵する証拠の
みが無罪に導くと決意して裁判に臨んだのです。「アリバイ」 という用語は、「現
場不在証明」 という意味で、厳密にはこの事件の用語とするのは適切ではない
かもしれませんが、適切な用語がないため、今後も「アリバイ」 という用語を使用
します。

 トリカブト中毒死というのは、けうなことであり、知識を得られるようなトリカブト
についての専門書も、いっさい市販されていないくらいですから、その内容を理解
するのは、よほどの専門家でなければ不可能です。私は七年間の裁判によって
知識を得ました。逮捕後の取り調べで黙秘するという方法もあるのですが、それ
では事件の内容をなにも掴めないうちに公判を迎えてしまいます。第一審の後半
で、私がトリカブト関連について、詳しく質問したり陳述したりしますが、それを検
察官は、私が以前からの薬学の大家のように印象づけ、だから妻を殺害できたと
主張します。この主張が判決理由の中にも脈々と流れていました。第一審の後半
が開始された当初は、トリカブトの毒性すら明らかでなかった私は、七年間の努
力の積み重ねで、専門家と論争できるほど知識を身につけたのです。
利佐子がトリカブト中毒死と仮定したとき、カプセルを服用してから、最初の自
覚症状を訴え、致死に至るまでの、血中濃度の動態が解明できるにもかかわら
ず、検察官も裁判官も、このことに触れるのを避け完全に無視しました。この「第
一の事項」 のアリバイを崩すことなく有罪とすることは、奇跡を想像したと、私は
決めつけています。

 偶然と奇跡、紛らわしい言葉です。当文書では、偶然とは、予想できない状況
ですが、起こりうる可能性のあることが、たまたま起こる出来事を言い、奇跡とは
、起こりうる可能性のない不思議な出来事を想像することだと、私は使い分けて
ます。一般に世の中で言われている奇跡の実現とは、要は、奇跡ではなく偶然の
巡り合わせか、または血のにじむような努力の賜物だと私は思いますので、当文
書で奇跡と言った場合は、実現不可能な想像の産物だと理解してください。
この章では、「第一の事項」 の説明に力を入れています。原審をとおして、利
佐子の具体的条件や動態を取り入れての、専門家の鑑定や証言がまったくない
なかで、、「第一の事項」 の検討は、利佐子の具体的条件や動態から無罪を立
証するという核心として、非常に重要な意義を持つのです。もとろん、「第二の事
項」「第三の事項」 もそれぞれ同じく非常に重要な意義がありますので、説明に
は万全を期しますが、比較的わかりやすく要領よくまとめることができますので、
やや短文となります。無実を立証する「一つの事柄」 は、込み入った状況を解き
ほぐす必要があり、説明がすこし長文となります。これらに比べると、「第一の事
項」 は、理解していただくために、鑑定や証言の囲みの記載を多用しながら、くど
いと思われるほどの長文の説明となりますのでお許し下さい。
 

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全文-35 (2013/02/27(水) 20:20:16)
2012.04.23

 全文-35
 
第一節 アリバイを完璧に証明する 「第一の事項」
 
 〔二つの時間〕 と 〔五つの条件〕
 
 「第一の事項」 の論題を示します。
「利佐子の最初の自覚症状の訴えから、心肺停止までの経過時間などの諸条
件を考察すると、仮に、トリカブト毒とフグ毒を服用したとしても、その経過時間帯
が特定され、その時間帯は、証拠上、利佐子がカプセルを服用した事実はないと
認定されている時間帯であること」論題にある「最初の自覚症状の訴え」 とは、
第四章の三「作為を持って排除し
ている」 で説明したように、「発症」 なのです。
よって、「発症」 とは、「最初に 
自覚症状を訴えたとき」 と、厳密に規定して以降
は使用します。また、利佐子は
トリカブト中毒で死亡したと仮定して話は進めます。
 
 「第一の事項」 の論題の趣旨を説明します。
トリカブト中毒における発症時の血中濃度は、五つの症例の一四名中一一名
について血中濃度が測定されていることから、個人差を考慮してもある範囲内に
確定することができます。その範囲の上限は、10mg/mlとなります。利佐子の発
症時の血中濃度を考える場合、両毒の拮抗作用を加味しなければなりません。
両毒の拮抗作用が最大にあったと仮定すると発症時間が約二倍に延長し、それ
の伴う血中濃度の上昇も約二倍となります。そこで、一〇mg/mlの二倍の血中
濃度は二〇mg/mlとなり、利佐子は血中濃度が二〇mg/mlに上昇するまでには
発症することになります。

 利佐子は午後二時一〇分に心肺停止となり、その時までに血中濃度は一二
五,七mg/mlに上昇していると測定されています。利佐子が発症した時刻は午後
一時二七分と確定していますが、この時の血中濃度がいま指摘したように、二〇
mg/mlとすると、利佐子の血中濃度時間曲線(グラフにおける血中濃度の上昇の
あり方) の午後一時二七分と午後二時一〇分の二点の血中濃度が確定してい
ることになり、この二点の血中濃度とその間の経過時間(この場合は四三分間) 
を基にした計算により、トリカブト毒が小腸から吸収を開始する時刻が、発症から
約八分前と確定します。ただし、利佐子の場合、吸収してから薬理作用を及ぼす
までの経過時間の最長時間が一〇分間で、その時間が八分間
を超えていますので、
一〇分間を採用し、小腸から吸収を開始する時刻が午後
一時一七分となります。
この時刻にカプセルの熔解時間(三重にした場合の最長
時間で一二分一五秒) 
と、胃内容排出時間(胃の内容物が小腸に移行する時
間、空腹時の抽出エキス
では約五分) を加味しますが、確実性を考慮して合わ
せて二〇分間とします。
ですから、カプセルを服用した時刻は午後〇時五七分と
なります。
利佐子は、午後〇時五三分以降、カプセルを服用した可能性はまったくないと
認定されています。よって、以上の結果から、利佐子は両毒入りのカプセルは服
用しておらず、事実は、トリカブト中毒で死亡したのではなく、病死であることが定
まり、私のアリバイは成立することになります。
「第一の事項」 の主旨はこのようなことですが、アリバイの成立を完璧に証明
するために、考えうるさまざまな様態を取り上げて検討し説明いたします。
 
 「第一の事項」 を組み立てている条件として、〔二つの時間〕 と〔五つの条件〕 
があります。
 これらをグラフで示したのが、「図1 午後〇時四三分に服用した場合の血中濃
度の上昇のあり方」 です。服用時刻をなぜ午後〇時四三分に設定したかは、こ
のあとで説明します。この図1を中心として説明していきます。
 
 この〔二つの時間〕 と〔五つの条件〕 が、利佐子がカプセルを服用してから心
肺停止に至るまでの動態にどのように当てはまるかは順次説明していきますが、
まず大筋を説明しますと、カプセルを服用してから、〔二つの時間〕 (カプセルの
熔解時間と胃内容排出時間) が経過して、小腸から吸収が開始され、〔第一の
条件〕〔第二の条件〕 (血中濃度時間曲線のあり方) のような曲線を描いて血
中濃度は上昇していき、〔第三の条件〕 (発症から心肺停止時の血中濃度) を
過ぎて、〔第四の条件〕 (心肺停止時の血中濃度) に達します。この四つの条
件から利佐子の発症時の血中濃度が確定し、これらの結果から〔第五の条件〕 
〔五つの症例から導き出された発症時の血中濃度〕 と比較して、利佐子がトリカ
ブト中毒で死亡したか否かを判断します。
 ここまでの説明で問題となるのは、先ほどの趣旨の説明で、トリカブト中毒の発
症時の血中濃度の上限を、一〇mg/mlと確定したことです。「第一の事項」 で
は、この問題がもっとも重要な問題となります。トリカブト中毒では、実際には、ど
の程度の血中濃度に上昇すると発症するか? という問題の答えは、五つの症
例で明らかにできますが、それは次の標題「血中濃度が事実を語る」 で説明す
ることにしています。ここの標題では、次の標題で検討する、トリカブト中毒の発症
時の血中濃度と比較する準備として、利佐子の行動で、Vホテルに到着したこ
ろ、チェックインを終了したころ、発症した時、の三つの時点の血中濃度を算定し
ます。図1で示している〔第五の条件〕 がそれに当たります。

図-1
グラフ-1   
 画像をクリックで拡大します。

図-2~5
グラフ-2 

画像をクリックで拡大します。

 午後〇時四三分以降にカプセルを服用していないことの根拠を説明します。
利佐子が搭乗した南西航空機が石垣空港に到着したのは、南西航空株式会
社からの回答書によると午後〇時五三分であり、判決もこの時刻の到着と、この
時刻以降のカプセルの服用はないと認定しています。また判決文は、「利佐子
は、同空港到着後、手荷物の受け取りをAとCに頼んでターンテーブル近くのベ
ンチに腰掛けてBと一緒に喫煙し、午後一時ころ、同空港前からAらとタクシーに
乗車して宿泊予定のVホテルに向かった」 と記述しています。
 空港に到着してから、タクシーで出発するまで、この間七分ほど経過しますが、
このことは、午後〇時五三分の到着時刻とは、乗客が搭乗口から降りはじめた時
刻と解釈できます。
航空機が着陸態勢に入ると飲み物のサービスはできなくなり、乗客は座席の
背もたれを元に戻しシートベルトを締めます。航空機が石垣空港に到着すれば水
を求めていつでもカプセルを服用できるのですから、着陸態勢にあるそのような
状態で水なしでカプセルを服用するなどということは絶対にありえません。航空機
は着陸態勢に入ると、高度を下げ、滑走路に着陸し、誘導路を移動して乗客を降
ろす場所に着き、タラップを準備し、その後、搭乗口を開けて乗客を降ろしはじめ
ます。着陸態勢に入ってから乗客を降ろすまで、少なくとも一〇分は経過します。
以上の状況から、航空機が石垣空港に到着した午後〇時五三分の一〇分前
、午後〇時四三分を利佐子がカプセルを服用した可能性がある最終時刻と設定
し、この時刻に利佐子はカプセルを服用したと仮定してその後の血中濃度の上昇
のあり方を検討していきます。
ただし、第四章五、「服用したとすると二時間以上前」 で説明したように利佐
子の具体的条件と様態とを検討すれば午前一一時二〇分以降のカプセルの服
用はありえないのですが、具体的条件と様態を無視して機械的に考えれば、この
時刻以降はカプセルの服用は絶対にありえないという時刻として午後〇時四三
分を設定しています。 
 
 それでは、午後〇時四三分に利佐子が両毒入りのカプセルを服用したと設定して、
その後の血中濃度の動態にかかわる、図1に示した〔二つの時間〕 および
〔 第一の条件〕 から〔第四の条件〕 までの四つの条件について説明します。
〔第一の事項〕 については、図1がすべての説明の基本となっています。
 
 「カプセルの熔解時間と胃内容排出時間を加えたものが、利佐子がカプセルを
服用してから吸収開始までの経過時間を確定する。」
午後〇時四三分に服用したカプセルは、溶解しながら胃から小腸に移行します
。トリカブト毒は胃からはほとんど吸収されず小腸から吸収されるため、吸収が開
始されトリカブト毒の血中濃度の上昇がはじまるのは、カプセルが溶解しきれずに
小腸に移行し小腸で熔解して内容物が露出して吸収がはじまるか、カプセルが胃
または移行中に溶解して露出した内容物が小腸に移行して吸収がはじまるかの
どちらかです。
 
全文-36 (2013/02/27(水) 20:43:21)
2012.05.01

 全文-36
 
カプセルを服用してから小腸で吸収がはじまるまでの最長時間を判断するため
に、この過程を二つに区分します。一つは、カプセルが溶解する時間、もう一つは
胃から小腸へ移行する時間です。これを〔二つの時間〕 と規定したのです。ただ
し実際には、カプセルは溶解しながら胃から小腸に移行しますから、この二つの
時間は重なりながら作用します。よって「二つの時間をプラスしたものより短い時
間になる」 といえますが、最長時間を確定するために二つの時間に分けて考察
しています。
カプセルの溶解時間は、判決が推認するように三重にしたとすると、三重にし
た場合の最長時間一二分一五秒を採用し、一三分程度とします。
 
引用 36-1 P209-P210
 
カプセルの溶解時間について、千葉大学のY教授の鑑定書によると、摂氏三
七度に保たれた水中でのカプセルの溶解時聞は次のとおりである。
一重の場合、一分二七秒から一分四O秒、五例平均で一分三五秒。
二重にした場合、一分五O秒から三分三八秒、五例平均で二分五四秒。
三重にした場合、九分四六秒から二一分一五秒、五例平均で一O分四二
秒。
 
 空腹時の抽出エキスの胃内容排出時間は、第四章六「トリカブト中毒の発症と
個人差」 で説明したように、五つの症例2から五分以内となります。
「二つの時間」 の最長時間で、カプセルの熔解時間を一三分程度としたことは
、カプセルが小腸に移行せず胃で溶解することを想定していますから、胃から小
腸に移行するのはカプセル溶解後の抽出エキスということになり、胃内容排出時
間は五分以内となります。
 よって、カプセルの熔解時間一三分程度と、胃内容排出時間五分以内を加え
て、「二つの時間」 は一八分程度となります。これは最長時間ですが、実際には
カプセルが溶解しながらその内容物と共に小腸へ移行するのですから、この重な
る作用の時間が差し引かれ最短時間はカプセルを三重にした場合は一三分程
度です。
 
引用 36-2 P210-P211 
 
腸溶性製剤カプセル剤の胃から小腸への移行について、千葉大学のY教授
は次のような主旨の証言をする。
腸溶性製剤カプセル剤を空腹時に投与すると、胃から小腸には、ほぼ瞬間
的、あるいは一O分とか、二O分とか言われているが、かなり早い時期に小腸に
移る。食事後は食べ物を胃の中で消化するという役割があり、食後に腸溶性製
剤カプセル剤を飲むと、小腸にいくまでに、早いもので、二O分とか三O分でいく
が、あるときには数時間かかるということもある。それは確率的な問題で、コント
ロールはできないと思ったほうがいい。
腸溶性製剤カプセル剤は、小腸で速やかに崩壊する。
 
この証言から、第三章七「判決はカプセルの細工に触れない」 で説明した腸
溶性製剤カプセル剤の空腹状態での胃内容排出時間は、ほぼ瞬間的か遅くとも
二〇分以内と理解できます。当然、三重にした通常のカプセルはこの二〇分以内
で溶解してしまいますし、二重にしたカプセルなら四分以内で溶解します。溶出し
た抽出エキスが胃から小腸へ移行するのに五分とはかかりませんから、これらの
事実から、Y教授の証言を参考にして、「二つの時間」 を二〇分間と設定すれば
、これ以上の確実性はないと判断しました。
説明のとおり、最長時間として、「二つの時間」 を二〇分間と設定しましたが、
図1では、午後〇時四三分の服用から、午後一時三分の吸収開始までのあいだ
を、「二つの時間」 として、二〇分と表示してあります。

 
トリカブト毒の吸収が開始されてから、血中濃度がどのように上昇するか、四つ
の条件との関連を説明します。
図1では、午後一時三分に吸収を開始して、午後二時一〇分に心肺停止に至
るまでの血中濃度の上昇のあり方をグラフで示しています。ただし、グラフの曲線
は、図1のような曲線になるとは限りません。図2、図3、図4のようになる可能性
もあります。しかし、図5のようにはなりません。その理由を説明します。

図-1
グラフ-1 
クリックで拡大します。
 
 36-3 引用 P287 血中濃度の図 2~5図
グラフ-2
クリックで拡大します。 
 
 利佐子の心肺停止時の血中濃度は、125,7ng/mlでした。心肺停止後の血中
濃度の上昇はないと、二名教授が証言していますので、心肺停止時に最高血中
濃度に達していた可能性があります。それが図2です。心肺停止に至る薬理作用
を及ぼすまでの経過時間が、最高血中濃度のあとになる場合が考えられます。
それが「図3」 です。トリカブト毒については、アコニチン系毒素の代謝物ないし
分解物は測定されていませんので、それらを測定すれば、血中濃度で125,7
ng/mlより高かった可能性があります。それが図4です。いずれにしても、心肺停
止時の血中濃度が125,7ng/ml未満という可能性はなく、図5のようになること
ありません。なお、これらについては、〔第四の条件〕 のところで詳しく説明しま
す。
図一から図四までグラフを確定するの条件は、〔第一の条件〕 から〔第四の条
件〕 まで以外に加味すべき条件はいっさいありません。図1における〔第五の条
件〕 は、それぞれの時刻における利佐子の血中濃度を算出した物ですが、図1
に比べて、図2から図4のグラフの曲線は若干上に膨らみを持つ曲線になり、〔第
五の条件〕 の血中濃度がその分増えることになります。この違いだけです。この
先、〔第五の条件〕 を確定させるとき、血中濃度に「以上」 を付けますので、グラ
フを「図1」 代表させて問題は生じません。
図1の五つの条件のうち、〔第1の条件〕 から〔第3の条件〕 までは利佐子の
具体的条件として確定しており、変更することが不可能な条件です。よって、四つ
の条件から算出した〔第五の条件〕 に示した血中濃度も、変更は不可能といえ
ます。そこで、次の標題で検討するトリカブト中毒の発症時の血中濃度と比較す
ることによって利佐子の死因がトリカブト中毒か否かが明らかになります。
なお、フグ毒については、血液からの検出量が致死量に至らず、フグ中毒で死
亡したと仮定する必要は全くなく、単にトリカブト毒との拮抗作用の問題だけなの
で、拮抗作用の説明が必要なところで搭乗させるだけにしています。
 
〔第1の条件〕 を説明します。
「トリカブト毒の吸収は受動輸送により、そのうちでも単純拡散、特に溶解拡散
によって行われ、縦軸(Y軸)を血中濃度の上昇、横軸(X軸)を時間の経過として
グラフに表すと、その曲線は上に膨らむ釣り鐘状の曲線になります。
 
36-4 引用 P213
アコニチン系薬物(トリカブト毒) の吸収特性について、共同鑑定書(東北大学
三教授)は次のように解説している。
アコニチン系薬物の吸収を考える場合、これら薬物に対して特異的に反応する
担体が消化管の細胞膜に存在する可能性は少なく、その吸収は受動輸送による
ものと考えられ、その内でも単純拡散、特に溶解拡散によって行われるものと推
定できる。
溶解拡散の特徴としては、(a) 濃度勾配に逆らっての輸送は行われないこと、
(b)エネルギー源や代謝阻害剤の存在によって影響されないこと、(C) 類似薬物
が複数存在しても相互に干渉がないこと、及、び(d) 油―水間分配係数の大きい
ものほど透過性、が大であること、などが挙げられる。
したがってアコニチン系アルカロイドの体内吸収速度は、(a) により摂取された
各薬物の濃度に依存するが、体内吸収速度を支配する主な要因としては (d) の
分配係数が問題となる。
 
共同鑑定書では、アコニチン系薬物の吸収は、特に溶解拡散によって行われ
ると推定し、溶解拡散の特徴を四点列挙していますが、それを私は第三章六「カ
プセルの熔解時間と吸収後の動態」 で簡単に説明し、トリカブト毒のスムーズな
吸収を阻害する要因は小腸内には存在せず、類似薬物が存在しても干渉されず
に、小腸内のトリカブト毒の濃度の濃淡に比例するような吸収速度で吸収される
と開設しました。
 また、トリカブト毒のグラフの曲線について、共同鑑定書の鑑定人O教授とS教授は次のような主旨の証言をしています。
 
36-5        引用 P294
 
トリカブト毒のグラフに描かれる血中濃度時間曲線について、血中濃度を縦軸
(Y軸)、時間の経過を横軸(X軸)で表示した場合、O教授は、「ある程度まで急に上
昇し、ある程度からだんだん下がっていくような、上に膨らみを持つ曲線になる」と
証言し、S教授は、「西洋の釣鐘のような形で、左右対称ではなくて、吸収のほう
が非常に上がっていき、ある時間はゼロで、それからなだらかに下がっていく」と
証言している。
 
第四章八「小麦粉の混合? それは影響ない」 で記述した、東京理科大学F
教授の鑑定書に描かれているテオフィリンのグラフの曲線もこの二教授の証言に
適合し、図1のように原点0(X軸とY軸の交点) から血中濃度が急激に立ち上
がるように描かれており、通常の薬毒物の描く血中濃度時間曲線は、この証言の
ようになると考えられます。図1から図5までのグラフの曲線は、この証言の示す
ように描いてあります。


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